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【関西の議論】「電車内で化粧やめて!!」 地下鉄の駅に異例の啓発ポスター…乗客苦情で決断

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「電車内で化粧やめて!!」 地下鉄の駅に異例の啓発ポスター…乗客苦情で決断

関西の議論更新

 電車内での女性の化粧。数十年前はほとんど目にしなかったが、現在では堂々と行われるようになった。そんな中、「見苦しい」「においがいや」といった苦情が寄せられていた大阪市営地下鉄・大国町駅が独自判断で、乗客にやめてほしい行為として、駅構内に啓発ポスターの掲示を始めた。市交通局はスマートフォンを歩きながら操作する「歩きスマホ」や車内での通話、さらに一般的な迷惑行為については啓発してきたが、「電車内での化粧」を取り上げるのは初めてで、全国的にも珍しい。なぜ異例の措置に出たのか。(張英壽)

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JRや私鉄は「なし」

 啓発ポスターは大国町駅の上り下りホーム計6カ所に掲示。乗客アンケートの結果を受け「やめてほしいこと」として多い順に1~5位を記し、ここに4位の「車内での化粧」が入っている。このほか、1位「歩きスマホ」、2位「車内での通話」、3位「荷物での座席の占有」、5位「車内での飲食」となっている。電車内での化粧についての啓発ポスターは、JR西日本や阪急電鉄、近鉄、京阪電鉄、南海電鉄にはない。

 アンケートは、昨年11月22日から28日の7日間にわたり、市営地下鉄四つ橋線の乗務員が業務終了後に同線の西梅田駅と住之江公園駅で実施。乗客を対象に「車内マナーで迷惑に感じる行動」を、9つの選択肢の中から選ぶ形で行われた。複数回答で、回答件数は2314件に達した。

 アンケート結果によると、4位の「車内での化粧」は264件で約11・4%を占めている。

 このほか、1位「歩きスマホ」401件(約17・3%)▽2位「車内での通話」369件(約15・9%)▽3位「荷物での座席の占有」272件(約11・8%)▽5位「車内での飲食」239件(約10・3%)▽6位「大声での会話」224件(約9・7%)▽7位「ヘッドホンの音漏れ」218件(約9・4%)▽8位「優先座席の使い方」216件(約9・3%)▽9位「床への座り込み」111件(約4・8%)-となっている。

 アンケート結果は今年3月から4月に約1カ月間、市営地下鉄四つ橋線の全11駅に掲示していたが、同線と御堂筋線が通る大国町駅は4月から独自判断で、アンケートをもとに1~5位を記した啓発ポスターをつくり掲示した。

 決断したのは、大国町駅の坂野明駅長。駅に電車内での化粧や、歩きスマホ、車内での通話などについて苦情が寄せられ、マナー啓発が必要と考えたためだ。

 坂野駅長は車内での化粧について「年配の人から『見苦しい』との声があり、横に座った男性からは『においがいやだ』という声があった」と打ち明ける。さらにマナーだけでなく、動く電車内で特にアイシャドーなど目のメークは「もし何らかの事情で急停車した場合、危ない」と指摘する。ポスターは当分掲示するという。

前年度は1位

 四つ橋線のアンケートは平成25年度も実施されており実は、このときは「車内での化粧」がトップの596件を占め、「携帯電話による通話」(574件)や「車内での飲食」(505件)、「荷物での座席の占有」(466件)などよりも多かった。

 アンケートは23年度から開始し今回で4回目。選択肢から複数回答する方式は変わりないが、自由記入欄があり1、2回目に「車内での化粧」をあげる意見が多くあった。このため、25年度の3回目の選択肢に初めて盛り込んだところ、いきなりトップに躍り出たのだ。

 一方、全国72の私鉄が加盟する日本民営鉄道協会(東京)でも毎年度、「駅と電車内の迷惑行為ランキング」として、ホームページ上で実施したアンケート結果を公表している。

 15の選択肢から複数選ぶ方式だが、「車内での化粧」は現在の方式を始めた21年度から26年度まで6~10位に入っている。26年度、「車内での化粧」は9位だが、「喫煙」(11位)や「混雑した車内での飲み食い」(13位)よりも上位というのは驚きだ。

 市営地下鉄ではこれまで、人にぶつかるなどの危険性がある歩きスマホや携帯電話による車内通話について駅の放送やポスター掲示で積極的にやめるよう呼びかけてきた。また車内放送で、「迷惑行為」を見かけた場合、乗務員らに知らせるよう呼びかけているが、電車内での化粧に特化した啓発はしてこなかった。

 大国町駅は啓発に乗り出したが、市営地下鉄を運営する市交通局の担当者は「電車内での化粧についてこれ以上、啓発強化していく考えはない。電車での化粧は個々人のモラルの問題」と話す。

まちの声は賛否両論

 では、実際に電車で化粧したことがある人や、その周りにいた人たちはどう思っているのか-。大阪ミナミで聞いてみたところ、賛否両論があった。

 電車内の化粧経験がない和歌山市の専門学校生の女性(20)は「見苦しい」と断言し、「隣の人にファンデーションが飛んで迷惑」。奈良県大和郡山市の女性会社員(42)も経験はなく、「見たら気分がよくない。鏡を見ながらマスカラやアイシャドーを塗るのは下品」という。男性からも厳しい意見はあり、大阪府枚方市の男性会社員(57)は「化粧する姿は人に見せるものではない」と述べた。

 これに対し、理解を示す声は若い男性に多く、大阪市浪速区の男性会社員(26)は「電車内の化粧は全く問題ない。座席にバッグを置くなどの行為のほうが迷惑」。大和郡山市の男性会社員(29)も「化粧することは(人前に出る上で)マナーだ。時間がなかったら仕方がない」という。大阪市住之江区の調理師の男性(22)も「近くでされたら、いやだけど、あんまり気にしない」と話した。

 一方、20代前半まで電車で化粧をしていたという大阪市東成区の女性会社員(36)は「恥ずかしいという意識はあったが、寝坊して仕方なくやっていた」と打ち明けた。「年齢を考えればいまは…。寝坊しても会社のトイレで化粧している」と話した。

 大阪府岸和田市の女性会社員(19)も中学生までは電車で化粧していたが、現在するのは「口紅くらい」。「当時、見られているのは感じていたが、時間がなかった。いまは寝坊したら『すっぴん』で行くか、遅れてでも化粧をして行く」。

羞恥心に変化が…

 ところで、電車での化粧はいつごろから多くなったのか。

 「羞恥心はどこへ消えた?」などの著書がある聖心女子大の菅原健介教授(社会心理学)は「電車での化粧が目立つようになったのは1990年代の終わり頃」という。「この頃、メークのポイントが目に移り、朝の化粧時間が長くなったためではないか」と指摘する。

 一方で、社会的な変化も背景にあるという。「かつて通勤で利用する駅や電車内は知り合いに会うかもわからず、化粧を見られるのは恥ずかしかった。しかし、都市化で近隣住民との関係が薄くなった。知り合いに会わなくなり、電車内は恥ずかしい空間ではなくなった」と分析する。

 しかし、「電車内での化粧は、見知らぬ者同士のマナーを守るためにさまざまな自制をしている人たちには自分勝手に映る。だから周囲が怒ることになる」といい、こうした意識が電車内での化粧が迷惑行為と感じられる背景にあるとみられる。

 ただし、「会社に行けば今でも、他人の前で化粧はしない。トイレで化粧をする。人前での羞恥心はなくなったわけではない」と説明している。