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政治的主張に福島を利用するな 地元分断するメディア 「はじめての福島学」著者・立命館大准教授開沼博氏語る

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政治的主張に福島を利用するな 地元分断するメディア 「はじめての福島学」著者・立命館大准教授開沼博氏語る

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 東京電力福島第1原発事故について、データを使って冷静な議論のベースを提供する『はじめての福島学』の著者で、立命館大准教授の開沼博氏(32)が産経新聞の取材に応じた。「原発をめぐる議論が政治問題化されていることが、地元の課題解決を妨げている」と訴えた。(九州総局 高瀬真由子)

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 平成23年3月、福島第1原発事故が発生しました。発生直後から、現実の福島と、イメージで語られる福島にあまりに差があり、地元に対する偏見があると感じてきました。

 福島の問題は政治問題化されています。

 政治問題化とは、例えば「原発反対」という自分の政治的な主張を強化するために、「福島はこんなにひどい」ということです。最初から答えありきで、福島を利用しているのです。

 福島県では、事故の影響で人口が減り続けているとか、原発周辺で放射線が漏れ続けているというイメージを持っている人もいるかもしれません。ただ、データを見れば、そうではないことが分かります。

 にも関わらず、こうしたイメージの結果、変なデマが流布することは、福島の人たちに対する差別にもつながる。「福島は汚れている」と言われたときに、言い返せる言葉やデータを福島の住民は持たないといけないし、外から福島を語るときは、データを根拠にしなければいけないんです。

 ■フクシマの牽強付会

 また、福島原発を語るときに、片仮名の「フクシマ」が使われることがあります。全国の新聞データベースで検索し、「フクシマ」の登場回数を調べました。いつが多かったと思われますか?

 平成23年8月に、その表現の山ができているんです。

 8月つまり、原爆をめぐる記事で、被爆の影響を語る際に無理やり「ヒロシマ」や「ナガサキ」と結びつけているんですね。

 福島の被災者は往々にして、「あなたは原発について賛成ですか、反対ですか」と問われることがあります。要するに、どっちの立場なんだと踏み絵を踏まされるんですね。その暴力性も目の当たりにしました。

 原発について「問題ない」とか「過剰に危険をあおるのは間違っている」というと、中傷や罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられる状態がずっと続いている。逆に「問題がある」といえば、「正義」の側にいるものとしてカリスマ視されるのです。

 原発立地地域の内側でみえる風景と、外から見る景色は違っています。

 原発の地元は地域産業の意義や、リスクについてもしっかり考えて、長年、議論してきた。自分たちが都市部に電気を送っているという使命感もあります。福島に限らず、九州の立地自治体でもそうでしょう。

 外部の目線では、こういう点を無視し、地元でも原発賛成、反対があるという二項対立で語られる。

 地元は原発推進派も反対派も、そんなに距離はありません。課題解決のため、地元で調整や努力をしている。ところが、活動家やメディア、研究者ら外部の人間が、原発に賛成か反対かという議論を持ち込み、地域を分断している。そう感じます。

 福島で生きている人を何も見ていないかのような報道です。これに地元では、憤り始めた人もいます。

 福島について、ファクト(事実)を知りたいと思っている人は多くいます。

 事実を切り出す際に重要なのは、課題解決や教訓を残すために、重要な事実であるかです。その対にあるのが、とにかく責任追及という姿勢です。

 政府や企業が悪いか否かといったことは、政治的な議論になり、不健全な状態をつくります。

 原発推進だろうが、反対であろうが、原発の廃棄物は、現にあるものは処理しないといけない。その課題は全員で共有できるはずです。しかし、処理について語ろうとすると「お前はそうやって原発を推進しているんだろう」と言われてしまう。

 避難している人を元のコミュニティーに戻そうという議論をすれば、「現地を安全だと思っている=原発推進」とレッテルを貼られる。

 しかし、現実はどうでしょうか。避難先の生活で生活習慣病にかかり、亡くなる人が多くいます。命を守るためには、帰還の議論をしなければならない。

 ■誤解の押し付け

 報道や発信の際には、こうした課題整理のための材料を提供するという視点が大事です。

 「福島の子供は外で遊べずかわいそう」といったステレオタイプの誤解を押し付けず、事実をちゃんと見ていくことが、本当に困っている人を助けることにつながります。

 「住民対行政」「住民対企業」といった対立は不毛です。冷静に議論するには、第三者が入り、議論をサポートすることが重要だと思います。原発の安全性、ごみの問題、雇用の問題、議論することは多くあります。

 「あなたは再稼働についてどう思いますか」と、対立をあおるやり方は、違うと思います。

 賛成派が主催する賛成派しかいない会合や、反対派だけの活動集会をやっても議論は前に進みません。

 推進、反対いずれも考え方が極端な人は(議論の場から)お引き取りいただくことが重要です。右でも左でも極端な人の信念、信仰心は、議論をしても変わりません。

 そうじゃない中間層が話し合い、みんなが納得できる落としどころは何なのか考えていく。そういう人が、地域のために何が必要か語り合う場をつくっていくことが、課題解決につながります。