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【三井美奈の国際情報ファイル】バチカン対中譲歩「隷属」か 司教任命 宗教弾圧緩めぬ習政権と合意へ

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バチカン対中譲歩「隷属」か 司教任命 宗教弾圧緩めぬ習政権と合意へ

三井美奈の国際情報ファイル更新
バチカンのサンピエトロ大聖堂。司教任命で3月、中国との詰めの協議が行われるとみられる(三井美奈撮影) 1/4枚

 カトリック教会の総本山バチカンと中国が国交樹立に動き出した-こんな観測が世界を駆け巡った。両者が確執の種だった司教任命問題で合意締結に近づいたためだ。バチカンが中国に大きく譲歩する内容とされるため、波紋は香港や台湾にとどまらず、カトリック教会全体に広がっている。

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 バチカン関係者によると、双方は3月、合意について詰めの協議を行い、早ければ月末にも調印の見込み。中国側が司教候補を提示し、法王が承認する方式で固まったという。法王が特定候補を拒否すれば、中国側は別候補を提示する仕組み。常に中国政府に近い人物が就任することになる。

「悪いメッセージ」

 合意については1月末、ロイター通信などが「数カ月内に調印の見込み」と報道。バチカン国務長官(首相)のパロリン枢機卿はイタリア紙スタンパで「法王は中国側との協議を見守っている」と交渉の進展を認めた。

 「合意は、バチカンの一方的な譲歩だ」。バチカン取材約40年のベテラン、イタリア誌レスプレッソのサンドロ・マジステル記者はこう明言する。習近平政権が宗教弾圧を緩めない中、合意調印は『悪いメッセージ」になりかねない。こうした懸念はカトリック教会内にも残るという。

 中国との協議では当初、「ベトナム方式」が浮上していた。バチカンとベトナム共産党政権との合意では、バチカンが司教候補を示し、政府が承認する仕組み。これに基づき7年前、バチカンはベトナムに司教を派遣した。対中合意では、政府との関係が完全に逆転することになる。中国が押し切った形だ。

 正面から抗議の声を上げたのは、香港カトリック教区名誉司教の陳日君・枢機卿だ。2月9日、記者会見を開き、「中国政府に忠実な者だけが候補になる。こんな仕組みで、法王にどんな拒否権があるのか」「国家に隷属する教会など、もはやカトリック教会ではない」と訴えた。陳枢機卿は香港教区の前最高指導者。法王批判スレスレの身を張った抗議は危機感の強さを示した。

身柄拘束中の司教も

 バチカンと中国は1951年に断交した。司教任命権は法王にあるというバチカンの主張に対し、中国は「内政干渉」と批判して政府公認のカトリック団体を設立。法王に忠誠を誓う信者は「地下教会」に潜り、身柄拘束されたままの司教もいる。

 なのになぜ、バチカンは対中融和を急ぐのか。

 マジステル記者によると、理由は2つある。「まずは『平和の構築者になりたい』という法王フランシスコの強い思い。第2に、このままでは、中国が一方的に大量の司教任命を行いかねないとの懸念があることだ」。

 法王フランシスコは2013年の即位後、米国とキューバの国交樹立で仲介役を務めるなど、積極的な教会外交を展開。中国との関係構築にも熱心だった。14年に中国が法王機の上空通過を認めた際には、習近平国家主席に「神のご加護を」と親善メッセージを発表。中国訪問についても「彼ら(中国)が招待状を出せば、すぐに私の意図は分かる」と述べ、意欲を見せた。

地下信徒900万人

 中国では高齢の「地下教会」司教たちが相次いで死去し、政府「公認」の司教が多数派となってきた。地下教会の信徒は約900万人にのぼるとみられ、バチカンは「状況を放置する危険は、合意締結のダメージを上回る」(同記者)と判断した模様だ。

写真ギャラリー

  • バチカンの台湾代表部。バチカンの中国との合意締結後、どうなるのか(三井美奈撮影)
  • バチカン取材40年のベテラン、マジステル記者。