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【野口裕之の軍事情勢】90万人殺傷 水爆並の北の炭疽菌兵器 亡命兵士が持っていた謎の抗体との関係は?

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野口裕之の軍事情勢

90万人殺傷 水爆並の北の炭疽菌兵器 亡命兵士が持っていた謎の抗体との関係は?

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平成13年12月に海上保安庁巡視船との銃撃戦の末、沈没した北朝鮮の工作船。米側は生物兵器を警戒し、遺体の予防接種歴を調べたという。14年10月に引き揚げられた=鹿児島市 1/7枚

 北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩・委員長の頭の中では、農作物と生物兵器の遺伝子操作に関する認識は同じであるようだ。飢餓を回避すべく大量の農作物を実らせる遺伝子操作と、自らの指導部転覆を回避すべく大量の人々を殺戮する生物兵器の遺伝子操作を、金委員長は区別できていない。

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 後述する昨年暮れの韓国メディアの《炭疽菌》報道で、そう思った。

 金委員長は昨年9月、北朝鮮・朝鮮人民軍810部隊に所属する《平壌生物学技術研究院》を視察した。2015年設立の技術研究院は温室などの農業設備が完備され、金委員長もトウモロコシやイネなどの農作物の品種改良成果などを見て回った、ことにはなっている。朝鮮人民軍将兵は農業や水産業にも従事するので、軍が所管する農業研究施設が存在しても不思議はない。

 しかし、技術研究院が持つ「裏の顔」はもっと“土臭い”。“土臭い”理由も後述するが、技術研究院は生物兵器の遺伝子操作などを手がける軍事拠点なのだ。もっとも、技術研究院の設立以前にも生物兵器の研究・製造機関は創設されており、生物兵器開発は北朝鮮の「国技」として定着している。

無色透明で浮遊し続ける炭疽菌

 まずは炭疽菌の説明をする。

 東京都江東区亀戸では1993年、テロ組織・オウム真理教が起こした炭疽菌を使った生物兵器テロ未遂事件が発生した。

 《9.11=米中枢同時テロ/2001年》の1週間後には、米国の大手テレビ局や出版社、上院議員に炭疽菌を封入した容器の入った封筒が送りつけられた。11人が《肺炭疽》を発症、内5人が死亡した。致死率は50%と高かった。抗生物質やワクチンなどを接種しない限り、90%の確率で死亡する。

 使用された「白い粉」は直径5ミクロン。人間の毛髪は100ミクロン以下で、いかに微小であるかが分かる。炭疽菌入り容器のフタを「ポンッ」と開ければ、白い粉は煙のごとく空気中に立ち昇り即、無色透明と化す。地面にも落ちず、炭疽菌は空気中を浮遊し続ける。人々はそうと気付かず呼吸し、肺炭疽を引き寄せる。

 肺炭疽兵器の「悪魔性」について、米国議会・技術評価局が以下報告している。

 《晴れた夜、大都市の30平方キロメートル地域に炭疽菌10キロを散布すれば、最高90万人を殺傷できる。100キロの乾燥炭疽菌の粉をまけば、被害は最大1メガトンの水素爆弾に匹敵する》

写真ギャラリー

  • オウム真理教によるサリン事件で地下鉄構内から続々と運び出され、救急隊員から手当てを受ける乗客ら=平成7年3月20日、東京都中央区
  • 米中枢同時テロで崩壊した世界貿易センター。テロ直後、米大手テレビ局などに炭疽菌を封入した容器の入った封筒が送りつけられ、5人が死亡した=2001年9月25日、米ニューヨーク
  • エボラ出血熱の訓練でカプセル型の装置に入った患者役を運ぶ保健所職員ら=平成26年12月19日、松山市
  • 弾道ミサイル「火星12」を見る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(手前)。朝鮮中央通信が昨年5月に配信した(朝鮮通信=共同)
  • 昨年7月4日、「火星14」の試射を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)。朝鮮中央通信が配信した(朝鮮通信=共同)
  • 昨年11月、北朝鮮軍兵士が南北境界線の辺りまで進む様子の映像。在韓国連軍司令部が公開した(共同)