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【話の肖像画】京大霊長類研究所所長・湯本貴和(1)世界で一人だけの景色を見たい

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話の肖像画

京大霊長類研究所所長・湯本貴和(1)世界で一人だけの景色を見たい

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京大霊長類研究所所長・湯本貴和(川口良介撮影) 1/1枚

 〈霊長類とはヒトを含むサルの仲間のこと。昨年、創立50年を迎えた京都大学霊長類研究所は、世界の類似研究機関の中でも輝かしい実績を誇る。そのトップの経歴がなかなか面白い。“サルひと筋”ではなく、そもそも「植物」の専門家だったからだ〉

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 京大理学部3年に進むとき、専門をどうするかで相当悩みました。生態学か、それとも人類学か…。結局、多くの生物を比較研究する「植物生態学」にひかれました。もうひとつの理由は、人類学を志す学生は数が多く、優秀な先輩方が大学院を出ても就職がままならない。一方、植物はそれほど人気がなかった。そこにチャンスがあると思ったし、チャレンジングだと考えたのです。

 〈長く研究に取り組んできたのが「植物と動物の相互作用」だ。動かない植物が移動するチャンスが大きく2つある。「花粉」と「種子」のステージだ。花を訪れた昆虫などに花粉を運んでもらい受粉する(送粉)、果実を食べた哺乳類に糞(ふん)などの形で種子をばらまいてもらい子孫を残す…。こうしたことに動物を利用するために植物は昆虫をひきつける花を咲かせたり、サルなどの食欲をそそるおいしい果実をつけたりするなど多様な進化を遂げてきた〉

 当時、送粉生態学を志す大学院生は、ほとんどいませんでした。誰もやっていないことをやってみたい、というのは研究者の性(さが)みたいなものでしょ。自由だったのもよかった。教えてくれる先生もいませんから、京大以外の大学へどんどん出かけていって、いろんな先生に教えを請いましたね。

 大学院の博士課程のとき、当時はまだ知る人ぞ知る島だった屋久島(鹿児島県)で2年半、照葉樹林の研究を行いました。島には、ヤクシマザルを研究していた霊長類学者たちもいて、そこで彼らとのつながりができたのです。やがて、その一人だった、山極寿一(やまぎわ・じゅいち)さん(現京大総長)に誘われ、アフリカのザイール(現コンゴ)でゴリラを研究するチームに加えてもらいました。

 〈アフリカのほか、コロンビア、マレーシアのサラワク州(ボルネオ島)など、世界中の熱帯林に長期間住み込み、研究にいそしんだ〉

 何しろ、私のようなテーマは他にやっている人がほとんどいない。「植物」が専門で、霊長類学者のライバルにもならないから、どんどん他の研究チームからも、お呼びがかかるようになった。一時は“霊長類学御用達”と呼ばれたくらいです。

 熱帯林の面白さは、他の地域とは比較にならないほど多様な生物がいることですね。今まで知られていない花や果実に来る動物を見つけることがある。「ああ、世界でこの景色を見ているのは自分だけなんだ」と思うとゾクゾクしますよ。そんな瞬間を経験したことが何回かあります。実生活でギャンブルはしないけど、大穴を当てたときはこんな気分なのか、なんてね(笑)。(聞き手 喜多由浩)

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【プロフィル】湯本貴和

 ゆもと・たかかず 昭和34年、徳島県生まれ。京都大学理学部に進み、京大大学院理学研究科博士後期課程修了(理学博士)。専門は生態学。京大生態学研究センター、総合地球環境学研究所などを経て、平成24年に京大霊長類研究所教授、28年からは同所長に就任。主な著書に「屋久島 巨木の森と水の島の生態学」「熱帯雨林」など。新刊は「世界で一番美しいサルの図鑑」(全体監修・著)。