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【書評】作家・秋山真志が読む『江戸の瓦版 庶民を熱狂させたメディアの正体』森田健司著 瓦版は当時のネット? 黒船来航も世界情勢を正確に把握していた

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作家・秋山真志が読む『江戸の瓦版 庶民を熱狂させたメディアの正体』森田健司著 瓦版は当時のネット? 黒船来航も世界情勢を正確に把握していた

書評更新
『江戸の瓦版 庶民を熱狂させたメディアの正体』森田健司著 1/1枚

 江戸時代から明治時代にかけて庶民の間に大流行した瓦版(かわらばん)。本書は、第一部「瓦版とは何か」、第二部「瓦版を読む」を通じ、その実像に迫っている。

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 非合法出版物であり、読売(よみうり)と呼ばれる売り子によって売られていた。彼らはダミ声で瓦版の一節を調子よく語り、客寄せをした。「三味線の伴奏がつく場合もあり、読売は一種の芸人だったのである。瓦版は紙でありつつ、肉声を伴ったメディアでもあった。このあたりに、江戸の庶民を夢中にさせた秘密がありそうである」

 瓦版で好んで取り上げられたテーマは、敵討ち、心中、好色物、天災地変、火事、見世物、時事問題など。やや低俗だが、エンターテインメント性の高い記事だった。

 幕末の到来を告げたペリー艦隊の襲来などの黒船関連の記事は、この年の瓦版界のベストセラー。瓦版屋には独自のネットワークや情報収集能力があり、黒船の詳細なデータも記されている。瓦版には絵が付き物だが、しっかりと星条旗まで描かれていた。鎖国していた江戸時代の人々は世界のことについてほとんど無知だったと思われがちだが、瓦版は驚くほど正確に世界情勢を記していた。

 〈世界万国ハ四大海六大州アリ。アシヤ州。ヨヽウロツパ州。リミヤ州、メカラニカ州、南北アメリカ州。是(これ)ナリ大日本国ハアシヤ州ノ内(うち)東ニアタル島国ナリ…〉

 江戸後期の日本では、オランダによって世界のニュースがもたらされていたのであった。黒船を「かっこいい」と熱狂した人もいれば、恐ろしさを感じて疎開までした人もいたようである。

 瓦版屋たちは日々、いかにして売るかというネタを腐心していた。デザインや絵図、摺(す)りの色数までさまざまな創意工夫を施し、時代とともに進化していた。そうした図版も本書の随所に載っており、目でも楽しませてくれる。江戸時代に誰かが作り、売り、買っていた-という圧倒的なリアル感がある。瓦版はいってみれば、江戸のインターネットといってもよいかもしれないと、ふと思った。(洋泉社・1000円+税)