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【書評倶楽部】ノンフィクション作家・河合香織 『片づけたい』 どう生きるかを表す姿勢

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ノンフィクション作家・河合香織 『片づけたい』 どう生きるかを表す姿勢

書評倶楽部更新
河合香織さん 1/2枚

 世に片づけ本は多いが、どうにもしっくりこない、うまくいかないという人も少なくないだろう。そんな思いに応えてくれる片づけ本の決定版ともいえるのが本書である。古今の作家による片づけに関する随筆を32編集めた。

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 片づけのテクニックは書かれていないが、すぐに片づけを始めたくなり、そしてそれでも片づけられない自分を許してあげたい思いになるのだ。紙くずや掃除ロボットの話、亡くなった人からもらった梅酒の後に残った梅を捨てられない思いから、心の片づけに話は広がっていく。

 年中行事のことを書きすぎて心萎えたという幸田文は、それでも年末の煤(すす)はきだけは好きだという。普段は汚いことは恥だとされるのに、その日だけはおおらかに許しあえる雰囲気があるからだ。

 〈人は清潔が好きであると同時に、汚なくしておくのもまた楽しがる性質を、みんな持っている。清潔には謹しみと静けさがあり、汚なさには寛(くつろ)ぎと笑いがある〉

 向田邦子は、部屋が散らかる原因となる新聞紙だが、子供の頃の思い出がたくさん詰まっていると描く。雨の日に湿った靴に新聞を詰めたり、畳の下に敷かれた新聞を大掃除の時に読む楽しみ。父は二日酔いの朝には、顔を見られまいと新聞紙で顔を隠した。新聞には、父親の権威を守る働きもあったのだ。

 有吉玉青(たまお)は、亡き母の思い出の品は靴下まで取っておいたのに、自分の中に母がいると思えたからもうすべてを捨てられたと書く。母親の一番大切にしたものは何かと考え、それは私のはずだから自分だけは大切にしようと誓う。

 片づけとは、空間と時間が限られた人生で、何を捨て何を残し、どのように生きるかを表す姿勢なのだ。捨てるからこそ得られるものも大きいことに気づかされる一冊だ。(赤瀬川原平ほか著/河出書房新社・1600円+税)

                   

【プロフィル】河合香織

 かわい・かおり 『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。近著に書評エッセイ集『絶望に効くブックカフェ』。

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