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【書評】文筆家・木村衣有子が読む『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美著 再び服に夢を見たい「志」

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文筆家・木村衣有子が読む『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美著 再び服に夢を見たい「志」

書評更新
『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美著 1/1枚

 日本で衣料品がつくられ売られる状況の荒れっぷりをつぶさに描いている。なぜそうなったかは、よく分かる。私自身、服は「欲しい」という欲を満たすよりも「必要」だから買うものだなあ、と、とらえるようになっていて、ファッションに、アパレルに、夢を見なくなったから。

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 今、服は主にネット通販で買っている。振り返れば10年前は、例えばシャツが1枚欲しいなと思えば、ファッション雑誌をめくり、モデルがまとっている服のイメージを大事に抱えるようにして百貨店に向かった。でも今では、シャツが必要だとすれば、まずは国内では最大のアパレルネット通販「ZOZOTOWN(ゾゾ タウン)」をのぞいてみる。素材、サイズ、このくらいならという価格で検索し、その条件を満たすシャツの中から選ぶのだ。

 この本には、苦い言葉が目立つ。

 「ニーズを大幅に上回る過剰な大量生産」

 「計画性のない出店戦略」

 「現場を支える販売員を“使い捨て”にする風潮」

 結果として「日本人はもうアパレルにお金を使わなくなっています」とも。そして「思考停止」という言葉が幾度も繰り返される。

 でも、希望はある。とある百貨店の社長は「アパレル不振については楽観していませんが、悲観一辺倒でもありません。志があって、経営者の意図がはっきりしているブランドは売れています」と話している。

 志あるブランドとして、自社でデザインから手がけた生地を99%使い切るところからはじまり、全てにおいて業界の慣習の逆をゆく「ミナペルホネン」が挙げられる。1着にかけられるコストを明示する「Everlane(エバーレーン)」や、リサイクルに注力する「パタゴニア」などアメリカの事例も紹介される。

 個人的には、縫製職人と、一点ものや小ロットの注文を結びつける「nutte(ヌッテ)」の心意気が、ぐっときた。一着一着、こんな風にしてほしいとつぶさに希望を伝え、縫ってもらう。そこまで立ち返れば、再び服に夢を見ることができるかもしれない。(日経BP社・1500+税)