産経ニュース for mobile

【書評】ジャーナリスト・小林雅一が読む『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳 格差社会を生き抜くためには

記事詳細

ジャーナリスト・小林雅一が読む『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳 格差社会を生き抜くためには

書評更新
『隷属なき道』ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳 1/1枚

 本書はいわゆる「ベーシックインカム(政府が全国民に無条件でお金を支給する制度)」を中心に、これからの社会の在り方を提言する内容だ。著者はオランダ出身の歴史家・ジャーナリストで、広告収入に一切頼らない報道団体「デ・コレスポンデント」の創立メンバー。

<< 下に続く >>

 産業革命以来の2世紀で世界経済は250倍、1人当たりの実質所得は10倍に増えた。中世の世界から見れば現代社会はユートピアだが、そこに生きる私たちは新たな夢を見ることができないでいる。

 社会の閉塞(へいそく)感を招いている主な理由は、かつてない格差社会の到来。21世紀に入るとロボットやAI(人工知能)の発達によって生産性は過去最高のレベルに達する一方で、労働者の平均収入が落ち、雇用が減っている。テクノロジーに支えられたグローバル経済の中で「勝者が独り勝ちする社会」がやってきた。

 それに対する処方箋は「人々にただでお金を配ること」と著者は説く。生活保護など従来の社会保障制度は、社会福祉課の職員が大勢必要になり、多額の予算がかかる。その上、煩雑な申請・審査手続きなどから、本当に必要とする人たちにお金が届かない。

 そうした機能不全に陥った福祉政策よりも、人々に直接お金を配る方が効果的でコスト削減にもつながる。既に世界各地で行われた試験的プログラムや調査によって、フリーマネーの支給が犯罪や栄養失調、10代の妊娠、無断欠席などを減らし、学業成績の向上や経済成長をもたらすことが証明されているという。

 本書はさまざまな調査結果やデータを明快に提示することで、相応の説得力を持っている。斬新な視点や、ときにユーモアを交えたレトリックも優れている。一方で、従来の社会保障制度を固守する官僚機構に対抗し、どのようにベーシックインカムのような画期的制度を実現していくか、その具体策までは言及していない。しかし、どれほど途方もないアイデアでも、それが正しい信念に基づいていれば必ず世界を変えられると本書は主張する。(文芸春秋・1500円+税)