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【書評】作家・明野照葉が読む『ライト兄弟 イノベーション・マインドの力』デヴィッド・マカルー著、秋山勝訳 古き良きアメリカの一家

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作家・明野照葉が読む『ライト兄弟 イノベーション・マインドの力』デヴィッド・マカルー著、秋山勝訳 古き良きアメリカの一家

書評更新
『ライト兄弟』デヴィッド・マカルー著、秋山勝訳 1/1枚

 ライト兄弟の“評伝決定版”といわれる本書は、NYタイムズで全米ベストセラー1位となり、既にドラマ化も決まっているという。なぜ今ライト兄弟なのか-。

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 ウィルバー、オーヴィルのライト兄弟が、世界初の有人動力飛行に成功したのが1903年、114年前のこと。当時のアメリカは、まだ開拓精神が色濃く残り、発明、もの作り、科学、技術、教育などに、人々が並々ならぬ熱意を持って取り組んでいた時代だ。現在の土台となる発明と発展がなされた、いわばアメリカのベル・エポックだったのかもしれない。

 なかでも飛行機は、まさに人々の“夢”で、その製作と飛行に身をささげたのがライト兄弟だ。本書を読むに、彼らの精励さはいささか常軌を逸している。兄弟は生涯独身。そこからも彼らの飛行機にかけた執念と献身が窺(うかが)われる。が、そんな兄弟により、レオナルド・ダビンチが自らの天命と語っていた人間飛翔(ひしょう)の夢は、約400年後のアメリカで結実を見る。

 時代の空気もあるだろう。兄弟の桁外れの情熱と急速な発展を遂げて強大化していく国の熱気。本書は全米の人々の心を、当時の熱狂と高揚の精神に回帰させたのだろう。

 83歳の著者、デヴィッド・マカルーもまた精励、自彊(じきょう)の精神を強烈に持ち合わせ、本書執筆も偏執狂的なほど丹念に膨大な資料、文書、日記、書簡に当たっている。

 一方、本書はライト一家の物語でもあり、兄弟と妹、キャサリンの頻繁な手紙のやりとりと内容は、ゴッホと弟テオの「テオの手紙」を想起させる。翻訳の力もあろうが、教養ある兄妹の書簡は、機知に富み、文学的で読んでいて楽しい。敬虔(けいけん)さと厳格さ、富や名声を求めぬ清廉さ、教育、家族の絆と深い愛情…この一家のありようも、良き時代のアメリカのそれだろう。

 人生成功の秘訣(ひけつ)を、ウィルバーはこう語っている。よき父と母を選び、オハイオで人生を始めることだ--。まねのしようはないが、もの作りは日本人の得意分野。同じく叫びたいものだ。この両親、この国に生まれた幸せよ!(草思社・2200円+税)