産経ニュース for mobile

【ゆうゆうLife】障害年金受給に初診日の壁 古いカルテなく支給されず

記事詳細

【ゆうゆうLife】障害年金受給に初診日の壁 古いカルテなく支給されず

更新

障害年金の受給には、年金保険料を納付していたかどうかがカギになる(本文とは関係ありません) 昔のカルテが見つけられず、障害年金を受けられないケースが問題になっている。障害年金を受けるには原則、病気が分かる前に保険料を納付している必要がある。だが、糖尿病など、最初に診断されてから障害状態になるまでに長い時間が経過する慢性疾患が増え、受給に必要な初診のカルテを探しきれない事例が増えているからだ。「10年も20年も前の書類を求めるのは妥当なのか」との声が上がっている。(佐藤好美)

 東日本に住む40代の男性は20代のころ、糖尿病と診断された。当時は会社員で給料も良かった。だが、「10人入社して、8人がやめてしまうような過酷な職場」(男性)。結局、続けることができず、会社を辞めた。

 それでも、若いときは体の状態も悪くなかった。激務の職場を辞めた後も、別の会社で契約社員として働き続けることができた。だが、数年前、糖尿病が原因で失明寸前に。治療を受けて視力は回復したが、その後、腎機能が低下し、透析を開始した。

 障害厚生年金を受けることを考えたのはそのころ。だが、年金事務所に相談に行ったら、「初診日を証明できる書類が必要です」と言われた。

 最初の診断から19年がたっていたが、その日に見たテレビ番組を覚えており、初診日を割り出すことができた。だが、なにしろ19年も前の話だ。病院にあたっても「そんな昔のカルテは探せない」と言われた。19年前に勤めていた会社に頼んで、糖尿病が原因で辞めたことを一筆書いてもらって障害厚生年金を申請したが、不支給になった。

 その後、人を介して再度、病院の医師に頼んでもらい、奇跡的に当時の診療記録が出てきた。再審査請求をして障害厚生年金が支給された。

 男性は「障害厚生年金が出なかったら、路頭に迷っていたと思う。カルテの保存期間は5年しかないのに、それ以上前のカルテを出せというのは妥当なのか。裁判を起こすには費用もかかる。要件を緩くすると、年金詐欺に近い申請も出るのかもしれない。だが、医師が発病時期を推定する書類を出せば、年金が出るようにするとか、何とか改善策を考えてもらいたい」と話している。

 ■慢性疾患増え、書類探し難航 問われる運用妥当性

 障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があり、加入していた年金制度や障害の程度によって、支給される年金額が異なる。

 受け取るための3要件は共通で、(1)障害の原因となった病気やけがの初診日に、年金制度の被保険者だった(20歳未満と60~65歳は除く)(2)初診日までに、保険料の納付要件を満たしている(3)初診日から1年半を経て(病状が定まった時点で)一定の障害状態にある-を満たす必要がある。どの要件にも「初診日」がからむ。

 厚生労働省年金局は「年金は保険制度なので、(保険事故となる病気やけがが起きた時点で)年金制度に加入しているかどうか、保険料を納めたかどうか、を確認した上で支給を行う」(事業管理課)とする。

 これに対して、NPO法人「障害年金支援ネットワーク」の社会保険労務士、青木久馬さんは「障害年金を受けるには3つの条件が必要だが、実際には『初診日の証明が取れるかどうか』を加えて4つの要件が必要だ」と批判する。

 「受けるべき人が受け取れるのが国民皆年金の精神。障害のある人は受け取れるべきなのに、そうなっていないのは国民皆年金の精神から外れているのではないか。時間がたてば、医師が死亡して廃業している場合もあるのに、初診日の書類が出せずに困っている人は多いと思う」と話す。

 初診日をめぐっては、訴訟も起きている。大阪地裁は今年夏、初診日を特定する書類を出せなかった女性に、障害厚生年金を支給するよう国に命じた。

 訴えていたのは、兵庫県内の60代の女性。女性は会社員だった昭和62年に県内の眼科で難病と診断された。20年以上たってほぼ失明状態になったが、初診日を証明できず、障害厚生年金を受けられなかった。大阪地裁は、眼科医の証言などで初診日が推認できるとした。

 国は控訴を見送り、判決が確定した。厚労省は「判決は事実認定に関する個別判断であり、尊重したい。ただ、初診日に関しては、平成20年の最高裁判決で国が勝訴しており、直ちに障害年金の運用を見直すものではない」(事業管理課)とする。

 初診日を特定する書類が見つからない場合、年金事務所は「参考資料」の提出を求める。身体障害者手帳、手帳申請時の診断書、事業所の健康診断の記録、お薬手帳や糖尿病手帳など。「材料になるものを少しでも収集し、支給に結びつくよう対応させてもらっている」(同)

 悩ましいのは、初診日が特定できない人に「本当に書類がない人」と「初診日を別の日にすれば障害年金を受け取れる人」が混じること。

 現場も板挟みだ。窓口業務に詳しいある関係者は「繰り返し未納の期間がある場合は初診日を特定できないと、保険料の納付要件を満たしたかどうかが分からない。推測で年金を出すわけにはいかない。結果的に支給できず、被保険者を泣かせている部分はある。困っています」ともらす。

 初診日をめぐる訴えが起きる背景には、疾病構造の変化や医療技術の進歩がある。比較的良い状態で過ごせる期間が延びる一方、障害状態になると、大昔の書類提出を求められる。未納にした人に年金を出さないことには理解が得られるだろう。だが、障害のある人に古い書類探しを求めるのは現実的なのか。運用の妥当性が問われそうだ。

                   

 NPO法人「障害年金支援ネットワーク」は、障害年金に関する相談に応じている。フリーダイヤル0120・956・119。平日午前10時~午後4時(正午~午後1時は除く)。12月27日~来年1月4日は休み。

ランキング