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【追悼】高畑勲さん 瞳に込めたハイジの強い心 作画監督・小田部羊一

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高畑勲さん 瞳に込めたハイジの強い心 作画監督・小田部羊一

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高畑勲監督 1/1枚

 「正面から真っすぐおじいさんの目を見つめるハイジの表情を描いてほしい」

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 テレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」のキャラクターデザインを担当していた私に、高畑勲(いさお)監督はこう注文した。

 私はそれまでスイスの山奥で暮らす女の子をイメージできず悪戦苦闘していた。彼の指示を聞いた瞬間、私の頭の中で鮮明に浮かび上がったのが、テレビで放送されたあのハイジの表情だった。私の当初のイメージはごく普通の愛らしい女の子だったが、高畑監督は厳しい大自然の中で生き抜く強い心を持つ少女を明確にイメージしていた。それがおじいさんの目を真正面から見据えるハイジだった。彼には明確な演出力があったのだ。

 東映動画で私と彼とは同期入社。彼の演出力の高さに注目しており、ようやく一緒に製作できる機会が回ってきたのが、劇場版アニメ「太陽の王子 ホルスの大冒険」だった。彼が監督、私がキャラクターデザイン、そして宮崎駿(はやお)が場面設計・美術設計を担当。初めて3人が組んだ作品で、「この3人なら、かつてないアニメを作ることができる」と確信した。

 テレビアニメ「母をたずねて三千里」や「じゃりン子チエ」などで組んだ後、違う道を進んだが、彼が監督した映画「火垂(ほた)るの墓」では、彼が私に、主人公の兄妹が浜辺で遊ぶ回想シーンの原画を依頼してきた。連日深夜まで苦労しながらこの場面を描いたことを覚えている。これが彼との最後の仕事だった。

 昨年春、肺炎で入院していた私の病室に、彼はお見舞いに来てくれた。

 「約1カ月前に肺がんで肺を切ったが、こんなに元気になったよ。だから、君も絶対に元気になる」と笑顔で励ましてくれた。昨年末には東映動画の元スタッフたちの忘年会で元気な姿を見せていたのに。

 かなうならば彼が監督、そして私のキャラクターデザインで新しいアニメ作品を作りたかった。(談)

                   

 アニメーション映画監督の高畑勲さんは4月5日、肺がんのため死去した。82歳だった。

                   

【プロフィル】小田部羊一

 こたべ・よういち 昭和11年生まれ。34年東映動画に入社。49年、高畑勲監督演出、宮崎駿監督が場面設定などを手掛けた「アルプスの少女ハイジ」でキャラクターデザインを担当。「じゃりン子チエ」「風の谷のナウシカ」など多くのアニメ作品を手がけた。60年に任天堂に入社、「スーパーマリオブラザーズ」「ポケットモンスター」などのキャラクターのデザイン監修なども手掛けている。