東京都心部のJR東日本各駅などに張られた誰もが見たことのある人気アニメのポスター。同社が実施中のキャンペーンを知らせるものだが、この中で使われているフレーズをめぐり、難しい著作権の問題が持ち上がった。焦点は楽曲の歌詞を印刷物に引用する際、どこまでが許され、どこからが権利侵害に当たるのか-。同社と著作権者との間で議論が持たれ、現在は双方で「問題なし」と確認。ただ、明確なルールがなく、専門家は「また同じ問題が起きる」と指摘する。
許諾得たのはアニメのみ
キャンペーンはJR東が世界的に有名なアニメ「ドラゴンボール」とコラボレーションしたスタンプラリー形式で、2月27日まで開催している。
問題が指摘されたのは、ポスターやスタンプの台帳などに印刷された「つかもうぜDRAGON BALL(ドラゴンボール)」や「そうさ今こそ!アドベンチャー」のフレーズ。いずれも同作がアニメ放送された初期の主題歌の一節だ。
JR東によると、1月20日に同曲の著作権管理会社から問い合わせを受け、調査を実施。使用許諾を得たのはアニメのみで、歌詞を含め楽曲は未取得だった。
ただ、JR東は「歌詞を丸々引用しているわけではない」と権利侵害を否定し、対応を求める著作権管理会社との間で協議。「引用できる歌詞の長短をめぐり双方で見解の相違があった」が、1月25日に両者とも問題がないことを確認した。
JR東は「楽曲使用のルールがあいまいだ。同様のことが起こらないよう注意したい」。著作権管理会社は「個別の案件については答えられない」と話した。
今後も同様ケース起こる
著作権法では、歌詞の権利侵害の有無を判断する基準について具体的な記述はなく、日本音楽著作権協会(JASRAC)は「ありふれた表現を除き、利用に当たると判断されれば長短にかかわらず、許諾申請してほしい」と話す。
一方、「創作性があふれているかどうかが判断の基準」と説明するのは、知的財産制度に詳しい大阪工業大大学院の大塚理彦教授。今回のケースについて「アニメのタイトル自体は著作物といえないし、(ポスターなどで使われた)歌詞の一部も一般的な表現で、著作物とはいえない」と話す。
著作権に詳しい高木啓成弁護士は「現在は(過去の曲を含め)多くの楽曲であふれている」とし、簡単に著作権を認めれば多くのフレーズが使えなくなってしまう状況を指摘。「画一的なルールの設定は難しい。今後も同様のケースは起こるだろう」と話す。
判断要素の一つが「創作性」
著作権をめぐっては、さまざまな分野で紛争に発展してきた。
歌詞が問題となったのは、歌手の槙原敬之さんが作詞・作曲した「約束の場所」。「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」という歌詞が、漫画「銀河鉄道999」の「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない」というセリフの無断使用に当たると原作者の松本零士さんが指摘したことから、槙原さんが名誉を傷つけられたとして、松本さんに損害賠償などを求める訴えを起こした。
東京地裁は「盗用の事実は認められない」と松本さんの名誉棄損(きそん)を認め、平成21年に知財高裁で和解が成立した。
著作権訴訟で判断要素の一つとなるのが「創作性」の有無だ。
休廃刊した雑誌の最終号の表紙や告知文などを集めた5年発行の書籍について、出版社10社が「著作権を侵害された」として発行差し止めなどを求めた訴訟。7年の東京地裁判決は、告知文の一部は「執筆者の個性がそれなりに反映された表現」で、創作性を備えた著作物だと認定し、書籍への掲載は著作権侵害に当たるとして、差し止めと損害賠償を命じた。
スクール情報誌「ケイコとマナブ」を発行するリクルートが、著作権を侵害されたとして別の情報誌の発行差し止めなどを求めた訴訟では、レイアウトの類似性などが争われた。16年の東京地裁判決は「索引や分類上のマークは編集著作物に当たらない」として著作権侵害を認めず、請求を棄却した。
携帯電話向け釣りゲームをまねされたとして、サイト運営会社が競合サイト運営会社に損害賠償などを求めた訴訟でも、魚を釣り上げる画面などの類似性が争点に。東京地裁が「表現上の創作性」を認めたのに対し、24年の知財高裁判決は「ありふれた表現で、著作権を侵害しない」と結論づけたケースもあった。(社会部 福田涼太郎、滝口亜希)




