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松尾敏男展(下)玄皎想 余白の美、水墨への想い

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松尾敏男展(下)玄皎想 余白の美、水墨への想い

『玄皎想』(2015年) 『玄皎想』(2015年)

 松尾敏男は晩年、水墨画を志向していた。題名の「玄皎(げんこう)」とは黒と白を意味する。昭和30年代に当時の日本美術院同人らによって、水墨の世界を重んじようという研究会「玄皎会」が催され、横山大観や堅山南風も参加した。つまり本作は、水墨への想(おも)いとともに古(いにしえ)の院展作家たちへ想いをはせている。

 体調の悪化から、筆の進まない日が幾日も続いた。渾身(こんしん)の力を振り絞って描かれた本作は、水墨、そして余白の美を追求した、まさに日本画の王道と呼ぶべきものとなった。

 青年時代、従来の日本画に反旗を翻して新しい表現を模索してきた松尾が、紆余(うよ)曲折を経て伝統へと回帰していったのは、日本人としての美意識の重要性を再認識したからである。

 実質上の絶筆となった本作。終生こだわり続けた牡丹(ぼたん)の絵を最後に、70年に及ぶ画業は静かに幕を閉じた。牡丹の下で安らかに眠る猫が松尾自身と重なってみえるのは私だけではないだろう。(長崎県美術館 学芸員・森園敦)