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壮大な夢へ第一歩 静岡大が宇宙エレベーター実験計画

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壮大な夢へ第一歩 静岡大が宇宙エレベーター実験計画

 宇宙と地球をエレベーターでつなぐという壮大な構想に向けた世界初の実験が静岡大で進められている。航空宇宙工学などを専門とする工学部の能見公博(まさひろ)教授(49)が中心となって実現化へ計画が練られている。実現すれば宇宙開発が飛躍的に発展するとみられているが、赤道上の高度3万6千キロを回る静止衛星からつるされるケーブルの強度の確保やテロ対策など克服すべき課題は多い。

 ◆小規模ながら世界初

 「宇宙エレベーター」構想の実現に向けて、能見教授は工学部が開発した超小型衛星「STARS-Me(愛称・てんりゅう)」を打ち上げ、クライマー(昇降機)の運用実験を見据える。一辺10センチの立方体衛星2機で構成される「てんりゅう」は宇宙空間へ放出後に分離。衛星内に内蔵されたケーブルを伸ばし、それに沿ってモーター付きの縦横3センチ、高さ6センチの超小型昇降機が昇降する様子を観察する。

 ケーブルは長さ10メートル程度と小規模だが、昇降機を使用した実験は世界初となる。宇宙エレベーター協会の久保田裕理事(60)は「影も形もないものに、影と形を与えるために踏み出さなければならない第一歩」と高く評価する。

 能見教授は、平成28年12月に前任機の「STARS-C」(愛称・はごろも)で長さ100メートルのケーブルを伸ばす計画を進めたが、通信状態が不安定だったため、ケーブルの伸び具合を確認できなかった。重力や空気抵抗などを分析し、数十メートル伸びた可能性があると推測する。

 ◆素材や安全対策…険しい道のり

 宇宙エレベーター協会の資料によると、3年に強強度の素材「カーボンナノチューブ」が発見されたことで議論が加速。具体的な計画が提案され始めたという。24年には大手ゼネコン、大林組(東京)が2050年の完成を想定して「宇宙エレベーター建設構想」を発表。上空3万6千キロにターミナル駅、地球の海洋上に発着場を設置し、総延長9万6千キロのケーブルでつないでエレベーターを運行させるという。宇宙エレベーター構想にカーボンナノチューブのケーブルは不可欠だが、能見教授によると、現在開発されているケーブルは「数ミリ程度」と実現の道程は険しそうだ。

 ロケットに依存した現在の宇宙開発とは違い、墜落や爆発などの危険性は薄く、宇宙開発を進めるうえで理想的な手段とされている。ただ、隕石などによるケーブルの損傷や落雷、テロへの対策など乗り越えなければならない課題は少なくない。

 将来的に長さ1キロのケーブルと昇降機を収納する超小型衛星の打ち上げを希望する能見教授は「はごろもは国際宇宙ステーションよりも低い400キロで実験されており、てんりゅうもその予定。より高い所に長いケーブルを伸ばすことは周囲に難色を示される」と現在の宇宙実験の困難さを指摘。久保田理事は「宇宙空間をどう使うのか、ゴミにならず必ず自力で処理できるような配慮をしなければならない」と語る。 (吉沢智美)

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【用語解説】宇宙エレベーター

 地上と宇宙をエレベーターで結ぶ輸送機関。高度3万6千キロの静止衛星から、上下に同等の長さのケーブルを伸ばすことでバランスを保つ。ケーブルにクライマー(昇降機)を取り付け、人や物資を輸送する。1960年代から議論されてきたが、宇宙から地上へつるす強度を保つケーブル素材がなかったため机上の空論とされていた。平成3年に「カーボンナノチューブ」が日本で発見され、宇宙エレベーターの議論が加速。宇宙エレべーターの技術開発のための競技コンテストも毎年開催されている。