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【電力危機は続く エネルギー基本計画の課題】(下)「脱原発」に似た感情的な「石炭悪玉論」

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【電力危機は続く エネルギー基本計画の課題】
(下)「脱原発」に似た感情的な「石炭悪玉論」

 石炭火力発電所に、激しい逆風が吹く。

 「石炭採掘、石炭火力発電など化石燃料への全ての資金提供を停止すること」

 今年3月、米サンフランシスコに本部を置く非政府組織(NGO)「レインフォレスト・アクション・ネットワーク」が、日本を含む世界の金融機関向けに提言を発表した。さらに、みずほフィナンシャルグループなど日本の3メガバンクに対し「石炭火力発電所拡大の重要な融資元」と強く批判した。

 批判の理由は、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)排出の多さだ。

 中川雅治環境相も5月15日の記者会見で「石炭火力発電については、厳しい姿勢で臨む」と述べた。その後も「CO2排出が非常に大きいものは、卒業していかなければならない」と繰り返す。

 こうした圧力もあってか、三井住友銀行は6月、低効率の石炭火力発電に融資しない方針を明らかにした。三菱UFJ銀行も「可否を慎重に検討する」、みずほ銀行も「適切な選択肢かなどを検証し、判断を行う」といった投融資基準を公表した。

 生命保険大手の日本生命も、石炭火力関連事業への新規投融資を取りやめる方針を固めた。

 吹き荒れる「石炭悪玉論」に、電気事業連合会の関係者は「エネルギー小国・日本にとって、石炭は不可欠な資源だ。行き過ぎだと感じる」と語った。

 石炭価格は、原油や液化天然ガス(LNG)に比べ、2分の1から3分の1程度で推移する。しかも上下動が小さく、安定している。調達エリアも、世界中に広がる。

 石炭火力が、大活躍した時期があった。東京電力・福島第1原発事故後の、全原発が停止した期間だ。

 原発停止中、電力会社は火力発電所をフル稼働させた。

 この間、九州電力は安い石炭火力をベースに、需要が高まればLNG火力を動かし、最後に石油と電源を使い分けた。

 九電は平成25年、火力の燃料費負担に耐えかね、工場など大口向け料金で平均11・94%、家庭向けで6・23%値上げした。

 九電の池辺和弘社長は「仮定の問題は考えたくないが、石炭火力がなければ、値上げ幅はあの程度では済まなかった」と語った。

 九電は現在、出光興産や東京ガスと連携し、千葉県袖ケ浦市に、超々臨界圧(USC)という最新鋭の石炭火力新設を計画する。ボイラーから生じる蒸気の温度と圧力を上げることで、効率を高める。

 池辺氏は「ファイナンス(資金調達)面で、非常に逆風が吹いている。ただ、電源構成は色々な選択肢が必要となる。石炭火力も効率を高めながら保持することが、大事だ。金融機関は安易な決断をしないでもらいたい」と語った。

 ■投機マネー

 行き過ぎた「石炭悪玉論」の弊害(へいがい)は、電気だけでなく、ガス産業に及ぶ可能性もある。

 石炭に比べCO2排出が少ない天然ガスが、代替資源として注目される。

 国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー展望2017」では、世界の天然ガス需要量は2016年から40年にかけて、4割増加すると見込む。国・地域別では、特に中国の伸びが2・9倍と著しい。

 この間、価格も約10~40%上昇すると予測する。

 世界的にみると、天然ガスの輸出入は、パイプラインが主流となっている。日本のように、船舶を使ったLNGのやりとりは、少ない。

 ただ近年、需要が膨らむ中国は、LNG輸入を増やす。天然ガスをめぐる各国の争奪戦が、激しくなる。

 独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部の田村康昌氏は「中国がLNG市場での調達を拡大すれば、日本への影響は極めて大きくなる」と指摘した。

 国内の大手ガス会社首脳は「天然ガスの価格が上昇傾向となれば、実需に限らずマーケットに投機マネーが流れ込む。原油に比べ、LNGの市場規模は小さい。そこに大量のマネーが流入すれば、価格は急変動することになる。大きなリスク要因だ」と語った。

 ■独も石炭37%

 政府が閣議決定した第5次エネルギー基本計画は、石炭火力について「安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源の燃料」と評価する。半面、環境保護の観点から「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」とする。

 このうち、石炭のデメリットだけを強調した悪玉論が勢いづく。福島原発事故後の「反原発」「脱原発」のムードに似ている。

 だが、石炭火力と原発をやめれば、LNG火力の依存度が高まる。中国や投機マネーの動向によって、電気料金が乱高下する事態になりかねない。

 現在の日本には、自給できるエネルギーは、ほとんどない。安定供給を達成するには、一本足ではなく、多様な選択肢が必要とされる。

 再生可能エネルギーに熱心というドイツでさえ、2017年の電源構成比(現地シンクタンク調べ)をみると、石炭37%、再エネ33%、天然ガス13%、原発12%、石油など5%-となっている。

 ムードに流されず議論しなければ、将来に禍根を残す。

 (中村雅和)