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【電力危機は続く エネルギー基本計画の課題】(上)険しい「主力電源」への道程

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【電力危機は続く エネルギー基本計画の課題】
(上)険しい「主力電源」への道程

 政府は7月3日、2030年、そして2050年を見据えた第5次エネルギー基本計画を閣議決定した。安定供給を大きな目標として、再生可能エネルギーの主力電源化や、非効率な石炭火力のフェードアウトなどを盛り込んだ。だが、九州の現状をみると、再エネ乱開発への住民反対など、計画達成への課題が浮き上がる。 (中村雅和)

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 北九州市小倉南区を中心に広がる「平尾台」。日本有数のカルスト台地には、羊の群を思わせる石灰岩と、200以上の鍾乳洞が点在する。国定公園であり、年間50万人近い観光客が訪れる。

 その平尾台を縦断する県道28号の西側に、太陽光発電用のパネルが並ぶ。

 「景観破壊以外の何ものでもない。しかも、雇用創出などの恩恵は地元にもたらさない。発電業者がやっているのは産業ではなく、単なる投資だ。太陽光発電には絶対に反対だ」

 地元、平尾町内自治会の前田康典会長(69)は憤る。

 県道28号の西側は、宅地をはじめ開発が可能となっている。その場所に3年ほど前から、大規模太陽光発電(メガソーラー)の建設が進んだ。

 日当たりは抜群で、地価も安い。メガソーラーにうってつけだった。

 これまでに、3業者が計約4千平方メートルの土地に、発電用パネルを設置した。

 福岡県の許可は取っているが、パネルに取り囲まれた住宅もある。メガソーラーの敷地と、県道の境目には土砂流出を防ぐ土嚢(どのう)が積み上がる。

 「乱立するパネルと、破れた土嚢は、景観を大きく損ねている。その上、朝から夜まで、送電用のパワーコンディショナーの重低音が響く。迷惑施設でしかない」。自宅近くにパネルが設置された西中あかね氏(35)は、疲れ切った顔で嘆いた。

 周辺住民は、平尾台と共存してきた。林道整備に汗を流し、ガイドとして、景観を壊さないように観光客を注意することもあった。

 メガソーラーは、平尾台の景観と、住民の長年の努力を破壊した。

 ◆「大きな危険性」

 エネルギー基本計画は、再エネ普及の具体策を、種類ごとに列記した。

 このうち太陽光は、荒廃農地や遊休地、そして学校・工場の屋根の活用などを挙げた。「地域との共生」という言葉も盛り込んだ。

 しかし、メガソーラーの現状は、「共生」どころか、地域の荒廃を進めているようにさえ見える。

 メガソーラーが急拡大したのは、旧民主党政権が平成24年に導入した再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)が、きっかけだった。

 太陽光で起こした電気の買い取り価格は高く設定され、太陽光バブルが生じた。

 野放図に広がったメガソーラーは、災害時には「凶器」となる。

 7月5日夜。豪雨が降り続く神戸市須磨区で、山陽新幹線の線路脇にあった太陽光パネルが、斜面ごと崩落した。

 パネルがフェンスを突き破り、線路に落ちる可能性があった。JR西日本は、新幹線の運行を一時見合わせた。

 同様のケースは、兵庫県西部の姫路市でも起きた。同7日未明、メガソーラーが設置された斜面が、幅約60メートル、長さ約60メートルにわたって崩れた。パネルと土砂が流れ落ちた。斜面の下には民家と国道があった。一歩間違えれば、住民の生命に危険が生じていた。

 神戸市の久元喜造市長は同11日の記者会見で「太陽光パネルは周辺の生活環境に悪影響を与え、災害時にも大きな危険性をはらむ。対応を考えなければいけない」と述べた。同市は、設置規制の検討に入った。

 国に改善を求める声も上がり始めた。

 山梨県議会は7月4日、太陽光発電の立地規制強化などを求める意見書を、全会一致で可決した。

 意見書では斜面の森林伐採を伴う開発や、周辺の環境と調和しない太陽光発電の問題点を指摘した。その上で「関係法令では、太陽光発電設備から生じている景観、環境および防災上におけるさまざまな問題に十分対応していない」と、国に法改正など、対応を求めた。

 ◆地域の不安

 地元とのトラブルは、メガソーラーだけではない。地下の熱水や水蒸気を使う地熱発電では、既存の温泉業者の不安、不満が噴き出している。

 今年5月中旬、熊本県小国町のあるエリアで、蒸気や温水がストップするケースが相次いだ。

 近隣には、地熱発電業者が進出している。温泉業者からは「地熱発電で掘った井戸が原因ではないか」との声が上がった。司法の場で、因果関係をはっきりさせようという動きもある。

 対応を急ぐ自治体もある。

 大分県別府市では6月、日本を代表する温泉郷・別府温泉を守ろうと、温泉発電を目的とした掘削を規制する条例が成立した。

 市長が、温泉発電の開発を規制する区域を指定できるようになった。

 ◆2600分の1

 再エネが地域と軋轢(あつれき)を生む原因に、エネルギー密度、つまり面積当たりの発電量の低さが挙げられる。

 関西電力が出した数字がある。面積20万平方メートルのメガソーラーの年間発電量は1100万キロワット時だった。これに対し、面積10万平方メートルの火力発電所の発電量は140億キロワット時。面積あたりの発電量を比べると、太陽光は火力の「2600分の1」に過ぎない。

 太陽光であれ風力であれ、発電量を増やすには、非効率さをカバーするだけの広大な面積、つまり土地が必要となる。限られた国土で、発電施設が住民生活を圧迫する。

 里山に黒いパネルが敷き詰められ、白砂青松の海岸に風車が林立する-。再エネ主力電源化の暁には、日本の風景は大きく変わっているかもしれない。