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【士魂を育む 今村裕の一筆両断】国旗国歌が当たり前の日本に

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【士魂を育む 今村裕の一筆両断】
国旗国歌が当たり前の日本に

 サッカーワールドカップ(W杯)で寝不足となった毎日が、随分以前のように感じます。日本は良い意味で前評判を覆し、決勝トーナメントに進出しました。サムライブルーと呼ばれる日本選手が、試合前に真剣な表情で国歌を歌う場面を厳粛に見ていました。

 開幕前、ちょっとした騒ぎがあったことを覚えておられるでしょうか。「ゆず」というデュオグループが「ガイコクジンノトモダチ」という楽曲を今年4月に発売しました。歌詞に国旗国歌にふれている箇所があったことで、話題になりました(詳細「音楽と人2018年5月号」)。

 6月には「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」の「HINOMARU」という曲についても「軍国主義的だ」と騒ぎが起き、ライブへの妨害運動までありました。

 それぞれの楽曲については、実際に聴いて、歌詞や雰囲気の感想をお持ちいただくとして、ここでは、国旗国歌についてある種の否定的な感情を持つ人について、筆者の体験を書きます。

 学校現場には、国旗国歌に深く関わってきた歴史があります。それは学校外とはまったく違うものでした。筆者は昭和の終わりに公立小学校の教員でした。毎年2月の職員会議を「ヒノマル職員会議」と揶揄(やゆ)していました。3月の卒業式に国旗掲揚、そして国歌斉唱をするかについて、長い長い話し合いがあるのです。ほとんどかみ合わない議論でした。

 まだ若かった私は、大きな茶碗(ちゃわん)をなみなみいっぱいにし、会議に臨んでいました。トイレに行く回数を多くして会議の場を回避するためでした。今思うと恥ずかしい限りですが、トイレで一緒になった先輩教員も「やれやれ」という感じでした。

 職員会議では、卒業式の式次第(案)に国旗国歌の文言があると、反対の教員が長々と意見を述べていました。若い女性の先生が「ヒノマルは先の戦争で多くの人を殺した旗です。赤い色はその人びとの血の色です」と涙を流していました。国旗国歌に反対する教員は、主に団塊の世代といわれている年代でした。校長教頭など管理職は戦前戦中生まれです。アフター団塊・アフター全共闘の筆者からすると、世代間で政治色がついているとも見えました。意見が出尽くすと「そろそろ総括をしてください」と声が上がります。筆者の世代では「総括」という言葉から、「連合赤軍の山岳ベース事件」を連想したものでした。

 学校の職員室では、年齢経験など問わず「子供の前ではみんな平等なのです」という建前が存在していました。ですから、筆者のような若年にも意見を求められました。率直に国旗国歌賛成の意見を述べると「まだ若いから、今から勉強していけば分かるよ」と取り合ってくれません。さまざまな意見を持つ教員も多数いたはずですが、賛成意見はごく少数の先生方でした。反対の声を出す少数派、今で言う「ノイジー・マイノリティー」によって職員会議が方向付けられていたのです。国旗国歌には賛成であっても、ごたごたに巻き込まれるのを忌避する多数派、すなわちサイレント・マジョリティーの意見は、なかったことにされていたようでした。

 筆者の体験は一つの例でしかありません。それでも、当時日本国中の学校で、程度の差こそあれ同様の不毛な時間があり、学校関係者は消耗していたと考えられるでしょう。

 この国旗国歌の問題では、教職員組合と教育委員会の板挟みになり、広島県立世羅高校の校長が自殺されました。この事件をきっかけにして、平成11年に「国旗国歌法」が成立したのです。

 それ以前にも広島県では、職員間の対立を背景に多くの自死事件があったことも知っていただきたく思います。現在でも国立大学で入学式・卒業式に国歌斉唱が行われない大学がいくつもあるのです。

 筆者は祝日には自宅に日章旗(国旗)を掲揚します。あるとき、町内会長が国旗を見て「お宅は自衛隊関係の方ですか?」と家族に尋ねたそうです。この出来事の背景にも、国旗に対するある種の感情があると理解できます。

 「ガイコクジンノトモダチ」「HINOMARU」。こうした曲に否定的な反応をする今の日本の雰囲気は、かつての職員室と共通していると感じます。スポーツや相撲の表彰式だけでなく、国旗国歌を普通に見られて歌える機会が増える日本になってほしいものです。

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【プロフィル】今村裕

 (いまむら・ゆたか) 昭和31年、福岡市生まれ。福岡県立城南高校、福岡大学卒。兵庫教育大学大学院修士課程を修了。福岡大学大学院博士後期課程。公立小学校教諭、福岡市教育センター、同市子ども総合相談センター、広島国際大学大学院心理科学研究科などを経て、現在は大分大学大学院教育学研究科(教職大学院)教授。臨床心理士。