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【想う】7月 「命のかたりべ」高橋匡美さん(52) 津波で両親亡くした体験伝える

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【想う】
7月 「命のかたりべ」高橋匡美さん(52) 津波で両親亡くした体験伝える

 ■「明日」は奇跡。「今」を生きていきましょう

 東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市南浜町出身。両親を津波で亡くした。「命のかたりべ」として体験を伝える。

 「結婚後は塩釜市に移り住んでいました。震災後、いてもたってもいられず高校生だった息子を連れて実家の様子を見に行きました」

 震災発生から3日後の平成23年3月14日、南浜町に入った。変わり果てた町と、わが家に愕然(がくぜん)とした。

 「家の中はぐちゃぐちゃ。でも両親は避難して無事だと思っていました」

 家の中を一通り見て回った。避難しているはずの両親を探しに行こうと息子に声をかけた。「もう一回よく見ようよ」と、かたくなに言う息子の言葉に再び家の中へ。母の遺体を見つけた。父は約2週間後、遺体安置所で見つけた。

 「家、大丈夫だった」と、友人に問われても、特に何事もなかったように答えていた。

 「両親の死という現実を受け入れられずにいたんです。震災後は家に引きこもりがちの生活を送っていました」

 転機は25年5月。石巻でボランティア活動にあたる女性に体験を発信することを勧められた。

 「自分のように震災でつらい経験をして、ふさぎ込んでしまっている人の救いになるんじゃないかと思いました」

 語りの原稿を書くことは苦しかったという。それでも書く手が止まらなかった。書き上げた後、なぜか心に引っかかっていたものがすっと、消えていくような気がした。

 「誰かに話を聞いてもらえる、そんな安心感があったんでしょう」

 語りは「あなたのふるさとはどこですか」という問いかけから始まる。

 「震災とは日常の喪失だと思います。だから話を聞いてもらう前に日常、自分の家を想像してもらう。そうすることで震災を自分の身に起こったこととして捉えることができるのではないかと思っています」

 今月8日にはニュージーランドの高校生たちが話を聞きに来た。何度も練習したという英語での語りに学生らは真剣な表情で聞き入っていた。

 「『明日』は奇跡。『今』を生きていきましょう」

 語りの最後に、こうメッセージを送った。

 「決して前向きなものではありません。両親を亡くしふさぎ込んでいた自分。でも、生きることはできた。『今』を積み重ねることで『明日』が来る」

 自らを「命のかたりべ」という。

 「被災者として語って良いのかと感じていたこともあります。私は石巻のような沿岸被災地にいたわけではない。語り部というのには抵抗があった。でも私は『命』の話をしていることに気がつきました」

 「命のかたりべ」。その話は被災地を案内して、防災を呼びかけるものではない。ある日突然、両親を失ったという経験を通して、明日を迎えることが当たり前のことではないと伝えている。話を聞いた後、思わず両親に連絡した、という感想も耳にする。

 「私の話は『命』の話。『道徳の授業』として聞いてもらえればと思っています」

 明日は奇跡。その想いが今日も「命の授業」に向かわせる。 (塔野岡剛)

                   ◇

【プロフィル】たかはし・きょうみ

 宮城県塩釜市在住。平成26年から「命のかたりべ」として、高校生への特別授業などの活動をしている。