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【ハイ檀です!】梅のおはなし

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【ハイ檀です!】
梅のおはなし

素晴らしい出来映えとなった梅の実 素晴らしい出来映えとなった梅の実

 このコラムの連載のお話をいただいて、いつの間にか7年の歳月が流れてしまった。2週間に1度、或いは月に1度の掲載であるが、正直なところ50回続けられるものかと、不安を覚えたものだ。だが、何と今回で146回目だから、自分でもよく書いてこられたものと驚いている。

 この『ハイ檀です!』は、父である檀一雄が、電話に出る際に大声を張り上げ「ハイ、ダンです」と応対していたことをヒントに、タイトルとさせて頂いた次第。東京の暮らしにはサヨナラをして、父の終の棲家だった能古の家を建て直し、65歳にして田舎暮らしを始めた。その生活の一部を切り取りながら、暮らしにまつわる様々な出来事を綴(つづ)ろうと考えていた。ところが、このコラムには写真を添付するのが義務。一応、広告の仕事に携わって来たから、カメラさえあれば何とかなる、と甘く考えていたのが大誤算。挿絵だと、テーマに合わせて想像力を働かせて書き上げれば事は済む。実際に写真を撮るのは、至難の業。何て事のない日常の中に被写体を見つけ、それにまつわるストーリーを考えて行かねばならぬから、ない知恵を絞っても出てこないのは悲しい限り。

 最近はカメラのデジタル化が進み、撮った映像を即パソコンで確認出来る。これはと思うものを何枚か写し、それを見ながら原稿を書いて、これまたメールに文章と映像を添付して編集部に送付する。父の時代では想像もつかなかったスタイルに変わったが、どうやら時代の流れに取り残されず追従しているのが現状なのである。

 ということで、日常の暮らしの中の風景から被写体を選ぶと、どうしても同じものに目が向いてしまう。今回の梅についてだが、過去の記録を遡(さかのぼ)ってみると、何と3度に渡り梅をテーマにしているではないか。最初は梅の実、次が梅干し、そして梅の花。という訳で、今回もまた梅の実の映像。最初のコラムは平成24年の6月24日号だったから、奇しくも今回は前日ということになる。写真を見比べても、一見代わり映えはしていない。ところが、今年の梅に限っては素晴らしく美しいし、実の大きさも杏の大きいものくらいあって、見事。

 何故大きく育ったのか、理由は明白。余りにも梅の枝が繁ってしまったので、植木屋さんに頼み思い切りよく剪定(せんてい)をして頂いた。お陰で、木は無駄な枝葉を整理して、幹全体の日当たりがかなりよくなった。確かに、花の数は例年より格段に減ってしまったが、スッキリした枝に可憐な花がほころび、蜜を求めてやって来るメジロにも啄(ついば)み易いように見受けられた。

 そして、収穫。幹全体の風通しがよくなった故か、実の数は例年に比べると3分の1以下。ただし、梅特有のソバカスのような斑点がつく黒星病やアブラムシによる害が極端に少ないようだ。したがって、熟れるにつれ日に日にその美しさと大きさが目立って来る。毎年梅干しを漬けてくれる妻は「今年の梅は素晴らしい出来だから、収穫時を間違えないようにしましょうね」と、僕に念を押す。毎日のチェックを怠ることなく観察し、うっすらと色づいた辺りを見極め収穫。

 確かに数は少なくなったものの、1個の嵩が多いために計って見たら20キロ強もある。ということは、昨年とほぼ同じ量だ。ほとんどの梅が美しく熟れたので、ほぼ選別の必要もない。考えてみたらここ数年は、傷ものはジュレや、スモモと合わせてジャムに化けさせた。妻は、梅を塩漬けにする際、1個1個手に取りながら「ワーッ、キレイ」の連発。丸1日かけて丁寧に取り扱い、無事塩漬けが終了。これで、赤シソの塩漬けと合わせた後、土用干しをすれば日本古来の梅干しが出来上がる。そこで教訓。来年のことを考え、梅の木にも正しい剪定を施し、病気にも罹り難くしてあげ、大きな実をつけて頂こう。

 ところで、梅干し用には多少若い梅があったので、梅酒を仕込んでみた。梅1キロに対して、宮崎の35度の幻の焼酎をためらうことなく使用。酒が旨ければ、きっと梅も喜んでくれるはず。これに、氷砂糖を500グラム加え、半地下室(縁の下)に貯蔵。来年の梅雨明け辺りには、友人供に「どうだ」と自慢するのが楽しみである。

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 だん・たろう 1943年、作家・檀一雄氏の長男として東京に生まれる。CFプロデューサー、エッセイストとして活躍し、「新・檀流クッキング」などの著書多数。妹は女優の檀ふみさん。