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【かながわ美の手帳】はだの浮世絵ギャラリー「-歌川広重没後160年-江戸の名所を描く」展

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【かながわ美の手帳】
はだの浮世絵ギャラリー「-歌川広重没後160年-江戸の名所を描く」展

 ■藍色に癒やされ 驚く構図の工夫

 江戸後期の浮世絵師・歌川広重が制作した名所絵を展示する企画展「-歌川広重 没後160年- 江戸の名所を描く」が開催されている。会場は、昨年の文化の日から常設展示を始めた秦野市立図書館2階の「はだの浮世絵ギャラリー」。同市出身の浮世絵収集家・大津圓子(えんこ)(故人)が故郷に寄贈した1900余点の中から、今回は“江戸の風景”を集めた。

 詩情豊かな景観

 会場に入ると、まず“日本橋ゾーン”の5点が目に入る。1枚目は「東海道五十三次之内 日本橋 行列振出」。有名な「東海道五十三次」の1枚目「朝之景」と同じ構図だが、描かれている人数はずっと多い。「朝之景」の後版だという。お江戸日本橋七つ立ち…の雑踏が聞こえるようだ。

 4枚目からは「名所江戸百景」シリーズが並ぶ。日本橋の上から江戸橋を望む大胆で奇抜な構図の「日本橋江戸ばし」。画面の右手前には、江戸っ子が「女房を質に入れても」と粋がった初夏の風物詩・初鰹(はつがつお)もてんびん棒に担がれている。

 「日本橋通一丁目略図」は今のコレド日本橋のある場所だ。マクワウリが売られ、そば屋の出前持ちの姿も。今回は37点が展示され、うち「名所江戸百景」シリーズがおよそ半数を占める。最晩年の広重が江戸の四季折々の景観を詩情豊かに描き出した。

 「こんな名所に行ってきたよと、絵はがきのように土産の役割を果たしたのでしょう」と市文化芸術専門員の松下由利。注目は「名所江戸百景」がどれも縦絵であることだ。ドローン撮影のように上空から眺めたり、クローズアップさせたりと、縦の構図ならではの工夫がさまざまに施されている。「そんな工夫が、海外の人たちの目には日本のすばらしい芸術性と映りました」と松下は言う。

 ヒロシゲブルー

 もう一つの注目点が、藍色の美しさだ。映画「ソナチネ」に代表される北野武監督作品の青みがかった色彩をキタノブルーと称するように、広重の名が冠されたヒロシゲブルー。広重は当時、欧州から輸入された深い藍色の出せる「ベロ藍」という絵の具を用い、空や海や川を絶妙な濃淡で描くことで名所絵(風景画)のジャンルを確立させた。

 確かに、ギャラリーには落ち着いた空気感が漂っている。ブルーのもたらす心理的効果かもしれない。「名所江戸百景 神田紺屋町」は、その藍染め職人たちが住む紺屋町の風景。画面左には日本の伝統色として「東京2020大会エンブレム」にも使われている藍色の市松模様の浴衣地がはためいている。

 画面中央の浴衣に記された文字は版元「魚栄」の魚。広重の「広」を図案化したマークも見える。そして遠景には晴れ渡った空を背景に富士山がそびえ立つ。名所だらけの江戸を実感させられる。 =敬称略(山根聡)

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 企画展「-歌川広重 没後160年- 江戸の名所を描く」は、秦野市立図書館2階「はだの浮世絵ギャラリー」(同市平沢94の1、カルチャーパーク内)で24日まで。午前9時から午後7時(火曜日は午後5時)まで。月曜日は休室。入場無料。問い合わせは市生涯学習文化振興課((電)0463・84・2792)。

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【プロフィル】うたがわ・ひろしげ

 江戸時代後期の浮世絵師。寛政9(1797)年、江戸の定火消しの安藤家に生まれる。東海道の宿場風景を描いた木版画の連作「東海道五十三次」で風景画家としての名声を博し、葛飾北斎と人気を二分。花鳥画、肉筆画にも才能を示した。「名所江戸百景」シリーズは晩年の代表作。ゴッホやモネなど印象派の画家に影響を与えた。安政5(1858)年に死去。享年62。