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【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】甘すぎるセクハラ加害者への懲戒処分

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【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】
甘すぎるセクハラ加害者への懲戒処分

 財務省福田淳一前次官のセクハラ問題。かなりマスコミを賑わせています。最近は、麻生大臣の「はめられた可能性」発言が注目を集めています。今年の流行語大賞の候補になるんじゃないでしょうか。今回は、セクハラについて考えてみたいと思います。

 セクハラを規定する法律は、男女雇用機会均等法(以下「均等法」)です。均等法は労働法の一つです。規制されるのは、事業所です。だから、例えば学生時代の友人が集まったときの性的な言動が問題となったとしても、「職場」ではありませんから均等法の出番はありません。福田前次官のセクハラ事件は、相手が同じ「職場」の人ではありませんね。しかし、均等法指針に「職場」の定義が示されていて、取引先との打ち合せ場所なども含まれます。今回の件を予想したように「取材先(記者)」も例示されています。

 事業所は、セクハラ予防措置として、就業規則で懲戒処分の内容などを定めます。これが難しい。例えば、「髪、切ったね」の一言がセクハラだと指摘されるケースと、部下の女性一人だけに残業を命じ、性的関係を強要するケースとでは、処分内容も大違いとなって当然です。一言でセクハラと言っても、個々に内容が違いすぎるのです。

 国家公務員法の懲戒指針は、セクハラについて3段階になっています。暴行脅迫による猥褻行為や性的関係強要等については、免職または停職。残り2つは、どちらも相手の意に反することを認識の上、猥褻な言辞等の性的な言動です。この言動を繰り返したかによって、停職、あるいは減給または戒告と、処分に違いが出ます。

 注目したいのが、「相手の意に反する」ではなく、「相手の意に反することを認識の上」となっている点です。加害者が「相手の意に反することを認識」していなければ、懲戒処分しないと言っているような内容です。「認識」などの内心は、外から見えません。国家公務員は、セクハラをしても「相手が嫌がっているとは認識していなかった」と言えば懲戒処分されないしくみになっているのです。

 福田前次官への懲戒処分は、「減給処分20%、6カ月」でした。しかし、本人はセクハラを認めていません。ということは、「相手の意に反することを認識の上」に該当しないのではないでしょうか。裁判でここを主張すれば、処分は無効と判断されそうです。民間企業が懲戒規定を作成するときは、このような使えない規定としないことが望まれます。逆に、本人が認めないまま減給処分で幕引きしたことから、事実は懲戒免職も視野に入るところ、退職金ゼロは可哀想だと内部処理したのではないかという疑念も生じます…。

 ところで、民間企業から「減給処分20%、6カ月という処分をしたい」のような相談を受けることがあります。頻繁に公務員の懲戒処分が報道されますので、違和感もないでしょう。しかし、民間企業では「減給処分20%」も「6カ月減給」も、いずれも違法な処分とされます。労働基準法は、一つの事案につき平均賃金の半日分を減給処分の上限と規制しているのです。平均賃金の半日分とは、月給の60分の1くらい、わずか約3・3%です。また、1事案につき1回限りで、2カ月以上続けることもできません。かといって、公務員の方が厳しいわけではありません。民間企業では懲戒解雇が検討されるような事案でも、公務員の場合は減給や戒告程度ですんだりすることがあるのです。

 福田前次官セクハラ問題を受けて、セクハラ対策を強化すべきだという声が上がっています。セクハラ加害者に対する厳罰化という意味では賛成します。しかし、セクハラ予防措置として、事業所に大きな負担がかかる措置を義務づける話なら、大反対です。

 均等法指針は、「性的な言動」と「就業環境を害される」の判断について、労働者の主観を重視しつつ、平均的な労働者の感じ方を基準にするとしています。「平均的な労働者」って、どう感じるのでしょう?

 この問題の実態は、嫌な相手の発言に少しでも性的な内容が含まれればセクハラで、好感を寄せる相手の言動なら行き過ぎない限りセクハラではないのです。端的にいえば、一人一人感じ方が違うため、セクハラに該当するかしないか、基準を定めようがないのです。セクハラ予防措置という耳当たりの良い対策強化の行き着く先は、「人によってはセクハラと感じる可能性がある言動の禁止」のような感じでしょうから、「業務上必要のない一切の会話禁止」。そんなことになりかねません。セクハラは撲滅できる可能性がありますが、そのようなギスギスとした職場では、人間関係においてもっと必要なものが崩壊し、メンタルをやられてしまう人が激増しそうです。

 私見は、セクハラとされる言動のうち、「大多数の人」が行き過ぎだと考える具体的な言動を明示した上で、その明示された内容に該当する加害者に対して重い処分を科す方向性が良いと考えます。この前提なら、刑法に「セクハラ罪」を追加しても良いかもしれません。ただその前に、国家公務員法の懲戒指針を厳罰化することは、必要不可欠だと言えるでしょう。

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【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。