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“木の物語”音色とともに… 飯能のコカリナ奏者・黒坂黒太郎さん(68)

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“木の物語”音色とともに… 飯能のコカリナ奏者・黒坂黒太郎さん(68)

 米ニューヨークの音楽の殿堂、カーネギーホールで昨年11月、コカリナ奏者の黒坂黒太郎さん(68)=飯能市=率いる「日本コカリナアンサンブル」のメンバー約130人らの合奏が大天井に響き渡った。演奏では、東日本大震災で津波に耐えた岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」から作られたコカリナも使われた。一つ一つのコカリナに宿る物語を胸に抱き、各地で舞台に立っている。 (飯嶋彩希)

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 コカリナとの出合いは平成7年、ハンガリーを訪問した際、友人から贈られ初めて手にした。当時から音楽活動をしていたが、木だけで作られたコカリナの音色は今までに聞いたどの楽器よりも柔らかく、心地よいものだった。音や形に魅了されて始めたが、日本に持ち帰ってから転機が訪れた。

 ◆“木そのもの”の魅力

 長野冬季五輪を控えた8年、長野県山ノ内町の志賀高原。世界最大のウインタースポーツの祭典を前に、山間部の道路整備が進み、森の木々は次々と伐採されていた。同県出身の黒坂さんは、故郷の木をコカリナとしてよみがえらせようと現地を訪ねた。

 「大好きな木が切られた」。同町のある小学校の通学路に立つ樹齢200年の大きなイタヤカエデは、町のシンボルとして親しまれていたが、伐採され、小学生たちが悲しんでいた。黒坂さんらはその木材からコカリナを制作。同五輪の表彰式で、小学生や町民らによる演奏を披露した。同町では現在でも、コカリナが広く親しまれているという。

 この経験を通して、木そのものが持つ魅力にひかれた黒坂さん。楽器として演奏するのはもちろんだが、使われる木材に注目し、コカリナを1つの「物語」として捉えるようになった。

 “木の力”をひと際強く感じるコカリナの一つに、被爆樹から作ったものがある。広島への原爆投下を経験したエノキの音色には深みがあり、真っ黒に焼けてもなお生きようとする生命力があった。黒坂さんは演奏前に、そんな木の物語を紹介する。「僕のコンサートは半分お芝居のようなもの」。観客に一つの情景を思い浮かべさせる演出だ。

 ◆割れんばかりの拍手

 カーネギーホールのコンサートは、コカリナの認知度の低さにもかかわらず、3階席まで埋まる盛況ぶりだった。音楽に厳しいニューヨーカーは、つまらなければ演奏途中でも帰ってしまう。不安を抱えたまま演奏を始めたが、曲を終えるごとに「ブラボー!」のかけ声と割れんばかりの拍手に包まれた。アンコール後も会場を去ろうとしない人々に、アンサンブルのメンバーはステージから手を振って応え続けたという。

 木の中心部をくり抜いて作るコカリナは軽く、口で空気を吹き込めば音が鳴る。小さい子からお年寄りまで3世代で楽しめるのも魅力の一つだ。

 「誰でも簡単に吹けるのでぜひ一度手にとってほしい」。黒坂さんは優しい笑顔でコカリナの世界へ誘った。