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保育環境の改善にICT活用 戦略特区の福岡市で実証実験

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保育環境の改善にICT活用 戦略特区の福岡市で実証実験

 保育現場での事故防止や人材不足解消にICT(情報通信技術)を活用する実証実験が、福岡市城南区の「きりん保育園」で始まっている。園児にセンサーを取り付け、データを収集・解析することで、多忙な保育士の業務を支援する。システムは九州工業大学(北九州市)が開発した。福岡市が国家戦略特区制度で整備した無線通信網を使う。(中村雅和)

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 園児の胸の服に、チップ状のICタグが取り付けられている。このタグが発信する位置情報を、マットレスの下に敷かれた薄いセンサーが把握する。うつぶせか横向きかといった姿勢だけでなく、呼吸や脈動による胸の動きも感知できる。呼吸回数の低下など異常の兆しがあれば、アラームで通知する。

 うつぶせ寝による呼吸困難など、乳幼児の睡眠中の死亡事故は多い。内閣府によると、平成28年に保育施設でなくなった乳幼児13人中、10人が睡眠中だった。同保育園はこれまでも保育士が頻繁に見回りし、呼吸の様子などをチェックしてきた。今回、ICTを活用することで、事故を防ぐ取り組みをさらに強化する。

 教室にもセンサーを置き、温度や湿度、二酸化炭素濃度を測定する。こうしたデータを基に、換気の適切なタイミングを計り、インフルエンザなど感染症の予防につなげる。

 園児の居場所把握や、おねしょの早期感知といった応用も目指すという。

 システムは、九工大イノベーション推進機構の佐藤寧教授(デジタル信号処理)が開発した。商品管理や盗難防止を目的に、大型量販店などで使用されているICタグと同じ原理だ。

 佐藤氏は当初、高齢者の見守り事業を想定していた。転倒の早期発見や、高齢者施設での事故防止などを目指し、九工大発のベンチャー企業「ひびきの電子」と一緒に、実用化を進めていた。

 この技術に、きりん保育園副施設長の友枝光史郎氏が着目した。

 友枝氏は、システム開発会社「SKT」を平成4年に創業し、ICTを活用した幼稚園や保育園の業務改善に携わっている。

 技術に明るい友枝氏が、園長で母の美栄子氏を説得し、とんとん拍子で実証実験が決まった。

 友枝氏は「保育現場へのICT導入には、反対論も少なくない。施設の運営者に理解と覚悟がないと進めにくいが、当園は条件が整っていた」と語った。

 来年3月末までの実験期間で、保育士の意見も聞きながらセンサーの改良などを進める。

 佐藤氏は「技術は確立できており、実験を通じて、保育の現場でどのように活用できるか調べたい。将来的には乳幼児や高齢者がいる家庭へも普及し、育児や介護の負担を軽減したい」と語った。

 ◆多忙な保育士

 実験は、保育士の待遇改善も視野に入れる。

 厚生労働省の統計では、保育士の有資格者120万人のうち、実際に勤務しているのは40万人ほどにとどまる。

 資格を持っていても働いていない「潜在保育士」が、年々増加する。有資格者の高齢化に加え、給料や労働時間の長さといった待遇面の不満も、大きな理由とされる。

 保育士の労働をみると、会議や記録・報告作成に割く時間も多い。みずほ情報総研(東京)によると、保育士がこうした業務に費やす時間は、1日当たり52・5分にもなった。

 きりん保育園では0歳児の場合、睡眠時の様子なども含め、10分単位で状況を記録する。こうした丁寧な仕事は、保護者にとってはありがたいが、保育士には負担にもなる。

 一方、保育士不足は、保育園で預かる子供の定員の減少につながる。

 きりん保育園も、保育士の採用数が、国や市の基準に追いつかず、平成30年度は0歳児の定員を、最大18人から12人に減らさざるをえなかった。

 それだけに、関係者が今回の実証実験にかける期待は大きい。ICT活用で保育士の負担軽減ができれば、保育士の採用増、ひいては待機児童問題の解消にもつながる。

 友枝氏は「保育士が直接、子供を見守る基本は変えない。それでも、ICTが業務を補助すれば、保育士の負担は軽くなる。子供はもちろん、保育士にとって良い環境につなげたい」と語った。