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漫画の絆に共感広がる 石巻・横手・熊本結ぶ 防災学習活用も

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漫画の絆に共感広がる 石巻・横手・熊本結ぶ 防災学習活用も

 7年前の3月11日。津波に襲われた漫画家・石ノ森章太郎氏の記念館「石ノ森萬画館」(宮城県石巻市)で九死に一生を得た職員らの様子を、漫画家の村枝賢一氏が「風の絆~東日本大震災を駆けた男たち~」という作品で描いた。萬画館と秋田県の横手市増田まんが美術館との助け合いの物語。村枝氏はその後、熊本地震も経験。宮城-秋田-熊本の3地点を結ぶ内容に共感が広がり、防災学習にも使われ始めた。 

 昨年12月9日、熊本県大津町立大津北小学校で「風の絆」の読み聞かせ会が開かれた。漫画をコマ割にしてプロジェクターで投影、萬画館で津波被害にあった木村仁統括部長と村枝氏がせりふを朗読し、津波の画像とともに紹介した。経費は全国から熊本県に集まった熊本地震の義援金で賄われ、生徒たちに保護者ら約150人が集まった。「地震を思い出して、怖くなった生徒もいたようだが、津波の理解は進んだように思う」と村枝氏は話す。

 「風の絆」は震災当日、萬画館で打ち合わせ中だった木村氏と、横手市増田まんが美術館チーフの大石卓氏が津波に遭遇した経緯を描いた作品だ。平成28年7月、石ノ森氏の代表作である「仮面ライダー」生誕45周年と萬画館の開館15周年に合わせ、同館と増田まんが美術館が開いた「仮面ライダー」合同企画展の記念冊子用に制作。震災を機に深まった両館の絆と助け合いがテーマだ。

 合同企画展はその5年前、震災の起きた23年に開かれる予定だった。萬画館での打ち合わせ中に地震発生、すぐそばを流れる北上川の水が急速に引く様子から津波を予測し車で高台に避難した。

 「5秒遅かったら被害に遭っていた」と木村氏。その後、同館2階に周囲の被災者を誘導し、横手市の自宅にいったん戻った大石氏が物資を積んで同館に戻り、復旧を手伝った経緯などを紹介している。

 被災して閉鎖された萬画館は1年8カ月後に再開、中止になった合同企画展を、28年に改めて行うことになった。木村氏は「震災ではいろんな経験をした人がいる。年月がたてば風化する。記憶がまだ新しいうちに漫画で残したかった」と考え、石ノ森氏の原作で「仮面ライダー」を描いてきた村枝氏に作画を依頼した。

 復興支援で東北地方をたびたび訪れていた村枝氏は出身地の熊本県在住で、28年4月の熊本地震を経験した。「被災した当事者の気持ちが初めて理解できた気がした。先を歩いている東北の皆さんの様子を見て、自分たちも立ち上がっていけるとの思いが強まった」と振り返る。作品は28年発行の「月刊少年マガジン」(講談社)にも掲載され、反響を呼んだ。

 大石氏は昨年5月、母校の●手市立増田中学校で、校外学習で石巻市に行く生徒たち約90人に作品を使って自分の体験を説明した。秋田は大きな震災被害がなく、「身近に津波に遭った人がいることが意外だったようだ。石巻は命を救ってもらった場所で感謝の言葉しかない。自分でも役に立てることがあれば今後もやっていきたい」と話す。

 関係者は「コミュニケーションツール」としての漫画の役割に期待する。「写真やドキュメンタリーでは生々しすぎて伝え切れないドラマを、子供たちにも伝えられる」と木村氏。村枝氏は「読者が登場するキャラクターに感情移入することで、リアリティーが迫ってくる。ドキュメンタリーより臨場感が大きいとも言える。子供にも分かりやすいよう描いており、今後も何らかの形で活用してほしい」と話している。

 「風の絆」の冊子は在庫切れ。講談社の「新仮面ライダーSPIRITS」15巻(原作・石ノ森章太郎、漫画・村枝氏)に収録されている。(藤沢志穂子)

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