産経ニュース

大口病院、事件未解決も…入院受け入れ再開 不安残しつつ住民期待感

地方 地方

記事詳細

更新


大口病院、事件未解決も…入院受け入れ再開 不安残しつつ住民期待感

 平成28年9月に入院患者2人が殺害される連続点滴中毒死事件が起きた横浜市神奈川区の旧大口病院(現・横浜はじめ病院)。事件後、28年12月に一般、療養の各病床の入院患者の受け入れを完全に中止していたが、2月末から一部で入院の受け入れを再開した。事件は未解決で県警の懸命な捜査が続くが、地域住民にとってなじみの深い医療機関の再開に期待感もあり、入院病床も順次、埋まっているという。地域住民らに衝撃を与えた事件から約1年半。止まっていた時計がようやく動き出した。(那須慎一、河野光汰)

                    ◇

 「再開を待ち望んでいた人もいると思うが、特異な事件もあった。医療体制に万全を期してほしい」。入院再開の一報を聞いた病院近くに約50年住む駐車場監視員の男性(76)は、やや不安を残しつつも期待を込めた。

 ◆警察との連携助言

 市は2月26日、病院側の要請を受けて、現地確認を実施。入院再開に必要な安全管理対策の指導項目の改善を確認できたことから、一般病床全42床のうち4階の26床について、病院は同28日から入院の受け入れを再開した。関係者によると、12日現在で2人が入院しているという。

 確認に当たった市の鈴木敏旦医療安全医務監は「指導項目は改善されていることを確認した」としつつも、「事件は解決していないので、警察や保健所などと連携するよう助言した。市としても引き続き指導、助言していく」と説明。横浜はじめ病院の鈴木峻病院長は顧問弁護士を通じて、「地域の皆さまが安心して当院での入院生活をお過ごしいただけるよう、引き続き安全管理体制の強化に努める」とコメントした。

 同病院では事件後、28年10月に市が臨時立ち入り検査を行い、薬品保管庫の施錠の実施や防犯カメラの増設、入退館のチェック体制など13項目の指導項目の改善を指示。病院は自主判断で入院の受け入れをやめ、同年12月27日には入院患者がいない状況となった。

 市によると、事件当時、台数の少なさが問題視された防犯カメラについて、病院は事件後、6台に増設したが、さらに十数台にまで増設しているという。また、人員体制は法令上の必要人数に加え、ナースステーションに日中は事務員1人、夜間は看護補助者を1人追加配置するなどの対応を実施。薬品保管庫や救急カートなどの施錠管理の徹底も図る体制を構築した。

 ◆臨時検査が増加

 旧大口病院の事件を受けて、第三者委員会がまとめた「市の医療安全業務に関する検証報告書」を踏まえ、市の医療安全課なども具体的な対応を進めてきた。羽田政直医療安全課長は「今年度は相談内容を職員が勝手に判断せず、たとえ空振りでもしっかりとヒアリングしたり、現場に行ったりするなどの対応を重ねてきた」と話す。

 従来、臨時検査などで職員が関内の職場を不在にすると、別の臨時対応ができないという“足かせ”があったが、事件を受けて人員を増員し、常に1チームは臨時検査を行える体制を構築したという。実際、臨時検査などの対応件数が事件のあった28年度には25件程度だったのが、29年度はすでに倍の50件以上に増えており、このことで「大きな事件、事故が発生せずに済んでいるのではないか」(羽田課長)と分析する。

 ただ、病院側に監査などへの抵抗感がまだまだ根強いのも現状で、「特段、検査でなくても病院の事務長を訪ねて顔が見える関係を構築しつつあり、情報提供や相談が増えてきている」(羽田課長)という。

 ◆マニュアル化も

 一方、今回の事件で問題となった業務時間外、特に土・日に情報提供のメールが入った場合の対応は、個人情報の扱いなどを含めてシステム構築に困難な面があり、なかなか実現していないといった課題も残る。

 羽田課長は「たとえ担当職員が交代しても、問題となる可能性があるものは一つ一つつぶしていく鋭敏な感覚を引き継ぐため、検査などで積み上げた対応内容を検証、分析し、マニュアル化なども進めていきたい」と語る。

 「高齢化社会において必要とされる医療を提供するため全力を尽くす」。鈴木病院長はこう決意を表す。

 事件が未解決のままでの本格的な入院再開は意見が分かれるところだが、地域に役立つ医療機関として安全対策を維持しながら、需要に着実に応えられるか。当面、厳しい目で注視されることになりそうだ。

                   ◇

【用語解説】大口病院事件

 平成28年9月20日、病院から点滴に異物が混入された疑いがあるとの通報があり、同23日、入院していた八巻信雄さん=当時(88)=の死因が異物混入による中毒死だったと県警が発表。その後、同18日に死亡していた西川惣蔵(そうぞう)さん=同(88)=も司法解剖で中毒死だったことが判明し、連続殺人事件に発展した。事件は未解決で、現在も捜査が続いている。