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【そして志す】(5)宮城県警岩沼署増田交番に勤務・川越樹巡査(21)

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【そして志す】
(5)宮城県警岩沼署増田交番に勤務・川越樹巡査(21)

 ■安全守る 中2の志貫く

 宮城県東松島市に暮らす中学2年生はあの日、卒業式の準備を終え、教室で帰宅の用意をしていた。午後2時46分。猛烈な揺れが襲った。「海が近いから水(津波)が来る」。とっさに頭に浮かんだが、まさかあんなにも大きな津波が押し寄せるとは想像もしていなかった。

 県警岩沼署増田交番に勤務する川越樹巡査(21)は当時を振り返る。

 2階の教室に避難した。1時間半ほどで水は1階の天井の高さまで達した。みるみるかさを増す水。「死」が頭をよぎった。

 一命は取り留めたが、「家族はどうしているだろうか」と不安にさいなまれた。「大丈夫」と自分に言い聞かせ、カーテンを布団代わりに暖を取り、家族の迎えを待った。

 姉が学校に迎えに来たのは震災発生から3日後だった。母も無事。父は県外に単身赴任中で難を逃れた。

 しかし、祖母が津波に流され、犠牲となった。震災から約2週間後、遺体安置所で見つかったと聞かされた。小学生のとき、運動会を見に来てくれた。声援を送るでもなく、じっと静かに観客席で見守っていた。

 「来てくれたんだ」。声をかけると、にっこり優しい笑顔になった。一番の思い出だ。幼稚園からの幼なじみも、一緒に生徒会活動をしていた友人も犠牲になったと知った。

 震災直後、穏やかな地元の風景は一変していた。窓ガラスが割られたコンビニエンスストア、カネを盗むためか、壊された自動販売機。「何かあると危ないから」と、金属バットを置いて身を守ろうとする人もいた。母には「危ないから日没までに帰るように」と言い聞かされた。

 治安が崩れた町の様子を見て、いつしか「地域住民の安心を近くで守りたい」という思いが芽生えた。警察官になろうと決めた。

 昨年10月、大型の台風21号が県内を襲った。当直だったが、冠水や交通事故を伝える電話が鳴り止まない。パトカーで名取市閖上地区に向かった。震災の津波で甚大な被害を受けた地域。水があふれていた。

 「あのときと同じだ」。津波を思い出す。

 「水の恐ろしさは津波の経験から知っていた。水に向かって行ってはいけないという原則が頭に入っていた」。効果的に交通規制をかけることができた。

 「本当に困っている人に、すぐ判断でき、すぐ活動できる警察官になりたい」。川越さんは話す。 =おわり

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【プロフィル】川越樹

 かわごえ・たつき 宮城県東松島市出身。父は自衛官。石巻市内の高校を卒業後、宮城県警に入庁。高校時代はラグビー部に所属。趣味はドライブ。座右の銘は「迅速・的確」で、理想とする警察官像は「速く的確に行動することができる警察官」。

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 この連載は林修太郎、千葉元、塔野岡剛、内田優作が担当しました。