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朝鮮人追悼碑訴訟 群馬県の処分取り消し 3年余の論争に結論 「強制連行」は政治的発言

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朝鮮人追悼碑訴訟 群馬県の処分取り消し 3年余の論争に結論 「強制連行」は政治的発言

 「一部勝訴」-。高崎市の県立公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑の設置期間の更新を県が不許可にしたのは違法として、碑を設置した市民団体「追悼碑を守る会」が不許可処分の取り消しを求めた訴訟は、3年余りの論争を経て、前橋地裁が処分を取り消す形で幕を閉じた。閉廷後、守る会と県側はそれぞれ会見し、“勝敗”の受け止めを語った。 

 「満点ではないが、結論は良かった。行政に対して司法がしっかり判断をした」と、守る会弁護団長の角田義一弁護士は判決を評価した。ただ、一部判断について、守る会は「不満が残る」とした。

 不許可処分は取り消したものの、争点となった(1)政治的行事はあったか(2)県の「政治的、宗教的行事および管理を行わない」とする設置許可条件は「表現の自由」を侵害しているか-について、塩田直也裁判長は「強制連行」という言葉を使用した集会が政治的行事に該当すると判断した。

 さらに、「宗教的・政治的行事に当たらなければ規制されない。表現の自由の趣旨に反していない」などとし、いずれも県側の主張が認められた形となった。

 これに対し、守る会弁護団の下山順弁護士は「不当だ」とし、「今後、来賓が(碑の前で)どのような発言をしていいのか、わざわざ行政当局に確認しなくてはならないのか」と指摘。政治的行事に対する前橋地裁の判断についても「『強制連行』は歴史学的にも確立した用語。納得できない」と主張した。

 ただ、判決では、「政治的行事を行った事実があることをもって、直ちに公園の効用を全うする機能を喪失していたということはできない」などとして不許可処分を取り消し、原告の一部勝訴という結果になった。

 下山弁護士は「(県側は)政治的行事があったというだけでは不許可処分にできなかった。判決が確定すれば許可処分とせざるを得ないはず」とし、控訴については協議するとしている。

 一方、県土整備部の中島聡部長は、「許可条件に違反があったと認定されたことは、県の主張が一部認められた。だが、不許可処分が取り消されたことは、大変残念だ」と受け止めた。

 (1)(2)の争点について中島部長は、「裁判所の判断は適正だと考えている」と評価したが、不許可処分取り消しには、「約束したことに違反したわけだから、県として不許可処分は妥当と考えていた。公園の管理者として利用者の安心安全を守るのが使命だ」と述べた。

 県は判決文を精査した上で、控訴も含め、今後の対応を検討していくという。

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 ◆まだ救いがある

 角田義一・守る会弁護団長「裁判長が考え抜いた判決だと思う。日本の司法は死んでいない、まだ救いがある。控訴については、政治的に解決できるか、高裁に行くか、和解できるかなどを考え、高度な判断が必要になってくる」

 ◆取り消しは残念

 大沢正明知事「許可条件違反があったにもかかわらず、更新申請に対する県の不許可処分が取り消されたことはたいへん残念である。判決文を詳細に検討し今後の対応を考えたい」

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 【視点】「強制連行」は政治的発言 玉虫色の判決 歴史問題に向き合わず

「政治的行事」の有無を最大の争点とする今回の訴訟は県の処分を取り消す一方、10年間の設置期間更新については知事の裁量に委ねるという玉虫色の判決に終わった。どちらが勝ったといえるのか、判断が難しい結果となったものの、集会での「強制連行」を含む複数の発言を明確に「政治的発言」と断じた意義は大きい。

 どのような行為が、守る会と県の間で交わされた「政治的、宗教的行事および管理を行わない」との設置許可条件に違反するのか-。曖昧だった判断基準に対し、前橋地裁は「強制連行」を含む発言をすること自体が、条件に違反すると“境界線”を引いた。守る会が碑文に盛り込む予定だった「強制連行」の文言を県との協議を経て削除した経緯を重要視した形だ。

 物足りないのは、「『強制連行』は一般的に使用され、過去の歴史的事実の表現を超えない」とする、守る会側の主張に対する判断だ。判決は「重要性があるとはいえない」と切り捨て、正面から向き合わなかった。

 守る会側は、法廷で繰り返した歴史認識をめぐる政治的主張は訴訟の「意義づけにすぎない」としてきたものの、集会などでは「強制連行」の文言を多用している。

 県側は「強制連行」を認めない政府見解を引き合いに出して議論に臨んだ。何らかの司法判断を示すことはできなかったのか。

 守る会側は「強制連行」の文言の使用にこだわり、「これからが勝負。新たな戦いが始まった」(角田義一弁護団長)と意気込み、両者の溝は埋まりそうにない。主張の応酬を続ける限り、追悼という本来の碑の趣旨から乖離(かいり)し続けるばかりだ。(吉原実)