産経ニュース

【被災地を歩く】旧大槌町役場庁舎、解体か保存か 3月町議会に注目

地方 地方

記事詳細

更新

【被災地を歩く】
旧大槌町役場庁舎、解体か保存か 3月町議会に注目

 岩手県内で東日本大震災の犠牲者が陸前高田市に次いで多い1285人を数えた大槌町を訪ねた。高さ10・7メートルの津波に襲われ、震災当時の加藤宏暉町長らが犠牲になった旧役場庁舎について、平野公三町長が昨年12月、旧役場庁舎を平成30年度に解体する予算案を3月の町議会に提案する方針を示し、解体か保存かで揺れ続けてきた旧役場庁舎の今後に関心が高まっているのだ。

 ◆町方地区かさ上げ

 旧役場庁舎は町中心部の町方地区にある。大槌湾にそそぐ大槌川河口まで1キロ足らず。町方地区は平均で2・2メートルかさ上げされ、旧役場庁舎は周辺道路から見下ろす位置になった。

 大槌町災害対策本部の活動に関する検証報告書によると、震災直後、旧役場庁舎前駐車場の災害対策本部にいた加藤町長と職員計20人、庁内待機の職員8人、帰庁中の職員5人、避難所対応に向かった職員3人、移動中の職員2人の計38人が津波の犠牲になった。

 「津波は凄い威力だったんですね。一度見たら忘れられない」

 旧役場庁舎を前に、目を丸くしたのは山形県から水道工事に来ている男性作業員(30)。盛岡市から復興工事の交通整理員に来た男性(39)は「車で来て中をのぞき込む人。観光バスで来る人。思ったより多い感じ」と話した。

 旧役場庁舎については平成25年3月に碇川豊前町長が一部保存を表明したものの、27年8月の町長選で解体を公約とする平野公三町長が当選、同年11月に解体を正式表明した。

 ただ同年12月、地元の大槌高校の生徒が早期判断の見送りを要請、町議会も解体予算案の提案見送りを求める意見書を提出した。これを受け、平野町長は解体予算案の提案を見送った。

 28年4月に町議会特別委が町内17カ所で町民から意見を聞き、町議会が平野町長に熟慮の上で判断するよう求め、同年11月に住宅再建などを優先するとして解体の判断を当面見送ることを表明していた。

 しかし、平野町長は今月7日の記者会見でも解体予算の提案に強い意向を示した上で、17日に解体に向けた住民説明会を町中央公民館で開き、跡地利用方針も示すことを明らかにした。

 ◆震災伝承のため

 これを受け、震災伝承のため旧役場庁舎の扱いを十分な時間をかけて判断するよう求めてきた同町吉里吉里の吉祥寺の高橋英悟住職(45)は10日、有志と「おおづちの未来と命を考える会」を結成、再考を働きかける考えだ。

 「今やるべきはどう町づくりをし、いかに生業の再生をし、町のにぎわいをどう取り戻すのか。解体を判断することではない。もっと時間をかけるべき。解体してから後悔しても取り返しがつかない」

 ◆町民分断の危機

 旧役場庁舎の問題は取り扱い次第で町民を分断しかねない。女性会社員(48)は「解体に賛成、反対の両方の意見の方を知っている。それぞれの言い分もよく分かるから複雑です」とため息交じり。「とにかく住民の間にしこりが残らないように決着してほしい」と話すのは自営業の男性(66)。「旧役場庁舎? ノーコメントだ」と無職の男性(75)は険しい表情で質問を遮った。

 旧役場庁舎近く。災害公営住宅に住み、日々近くを散歩する住民は「見たくない」の解体派が多い印象。「町長選で勝った平野さんはちゃっちゃっと解体すべきだった」と語気を強めた主婦(64)もいた。

 一方、「今年11月に町内で全国小中一貫教育サミットがある。来年はラグビーのワールドカップがお隣の釜石市である。旧役場庁舎を解体して、被災地として何を見せるんだ」と話す男性会社員(60)も。

 解体予算の行方は、3月の町議会で審議される。(石田征広)