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住民に寄り添い34年 「赤ひげ大賞」に伊万里の水上忠弘医師

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住民に寄り添い34年 「赤ひげ大賞」に伊万里の水上忠弘医師

訪問診療を行う水上忠弘医師(右)。患者も笑顔を見せる(永田直也撮影) 訪問診療を行う水上忠弘医師(右)。患者も笑顔を見せる(永田直也撮影)

 ■高齢化進む地域に合わせた医療を

 第6回「日本医師会 赤ひげ大賞」(主催・日本医師会、産経新聞社、特別協賛・太陽生命保険)に、九州からは佐賀県伊万里市の水上医院院長、水上忠弘医師(73)が選ばれた。「支えてくれた皆さんの代表として賞を受け取りたい」。高齢化が進む地域で、住民に寄り添い34年になる。地域医療の課題や今後の抱負を聞いた。(九州総局 高瀬真由子)

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 --献身的な姿勢が高く評価されました

 田舎の医師として、当たり前のことをやってきただけです。看護師や他の病院の医師を含め、チームの連携があったから、今の自分があります。皆さんの代表として受け取りたい。

 --医院がある地域の特徴は

 若い人が極端に少なく、高齢化率がどんどん上がっています。老老介護の世帯もあれば、足の具合が悪く、病院に行けない人も多い。週に2回、訪問診療で3~4軒を回ります。病院と地域とを往復する送迎バスも導入しました。

 --入院患者も受け入れている

 19床あるベッドは満床状態です。入院患者の平均年齢は85歳で、独居の人の中には「医院で死なせてほしい」という人もいます。独りぼっちで死にたくないという思いがあるのでしょう。「私が死んだのを、誰か気付いてくれるのだろうか」といった不安が大きいようです。

 自宅で亡くなるのが良いという人もいますが、医院にはスタッフもいます。地域の人も立ち寄ります。病院が「終の棲家(すみか)」になっています。

 --リハビリ施設も整備している

 入院患者を寝たきりにさせておくのが、嫌だったのです。看護師が理学療法士からトレーニングの指導も受けています。地域の人にも開放しています。

 --医師を志したきっかけとは

 父親が開業医で、跡を継がなければだめだと思っていました。幼いころからこの地域で過ごし、多くの人は顔見知りです。患者さんの病気のことだけではなく、性格や家族の状況も分かるので、相談も受けやすい。

 頭がふらつく、と訴えた80代の男性がいました。でも、かつて校長先生だったせいなのか、人を頼ろうとしない。気になり、夜に電話をかけると、出ないんです。男性の様子を見に行くと土間に倒れているのを発見し、一命を取り留めることができました。

 いつもとは違った様子だったので、気付くことができました。

 ある高齢者が徘徊(はいかい)し、行方不明になったこともありました。そのときは「娘さんの家の方にいったのではないか」とピンときた。実際、家の近くに座っていたところを見つけた。長年医療をやっているので、状況が読める。そんなときは、良かったと思いますね。

 --いろんな出来事がありますね

 認知症のおばあちゃんで、便を丸めて室内に置く人がいました。社会全体で認知症の患者さんを診るといっても、そうした人は孤独になりがちです。

 私の場合は、むしろ便の形を見て「今日は調子が悪そうだな」とか気付いたりします。

 --介護施設も運営している

 デイサービスを提供し、昨年春には小規模多機能施設を新設しました。不安な時には宿泊もできます。地域にとり「こうした施設が必要だ」「ないと困る」と思うことを無心でやってきました。

 設備を整えようと借金もしましたが、女房=広子さん(70)=のやりくりがうまかった。ぜいたくをしなければ、経営はやっていける。もっとも、以前はあったスタッフとの社員旅行は行けなくなりました。

 --医院の医師は1人です

 大変だと思えばストレスですが、これが田舎の医師の仕事です。いろんなことに取り組めるのは楽しみでもあり、そう思えば苦になりません。スタッフにも恵まれています。病室で誰かが亡くなると、当直担当以外でもスタッフが駆けつけ、対応します。

 --地域医療の課題は

 寝たきりの人のおむつを替えようと、ぽつん、ぽつんとそれぞれに離れた家に向かうのは非効率です。今後さらに高齢者が増えれば、対応できなくなる。

 自宅で診る在宅医療が良いともいわれますが、1カ所に全員を集めて、ケアをした方が合理的なこともあります。状況を見極め、上手にやっていかないとだめでしょう。

 診察する側の都合ではなく、受ける人の気持ちに立ち、地域に合ったものを提供する。これが大切です。

 国や自治体が進める地域での「包括ケア」も、かかりつけ医の私たちがポイントになります。地域の一人ひとりのことを考え、地域に入り込める医療関係者がどれだけいるのかが、鍵を握るでしょう。

 --今後の抱負は

 地域に合った医療を続けたい。この年齢になると、地域住民と一緒に歩むといった感じです。私が少しだけ先頭に立ち、「危ない」と思ったら「こちらですよ」と声をかけ、最後まで、落ちこぼれがないようにしたい。引退するのは引退せざるを得なくなったときでしょう。

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【プロフィル】みずかみ・ただひろ

 水上医院理事長・院長。昭和19年生まれ。48年、昭和大医学部卒業、同大第2内科、三菱自動車工業川崎診療所での勤務を経て、58年から水上医院勤務。平成18~26年に伊万里・有田地区医師会会長を務め、現在顧問。高齢化率が40%を超える地域のかかりつけ医として、住民の診療に励んでいる。