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川崎・日進町の簡宿をアートで大胆リノベ 不動産業者「現代の宿場町」に

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川崎・日進町の簡宿をアートで大胆リノベ 不動産業者「現代の宿場町」に

 川崎・日進町の簡易宿泊所(簡宿)をアートで変える-。川崎市内で不動産事業を手がける「NENGO」(高津区)が日進町の簡宿を1棟買い取り、リノベーションを行って「世界一小さな部屋のドヤアート宿所」をテーマとした宿泊施設「日進月歩」をオープンさせた。日進町では平成27年に11人が亡くなった簡宿火災が記憶に新しいが、あえて建て替えずにアートを取り入れるなどで付加価値を与え、簡宿が持つ歴史や文化を伝えられる地域の新拠点に育てようと関係者らの熱がこもる。(那須慎一)

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 「日進月歩」の建物は戦後、長年にわたって多くの利用者に親しまれてきた簡宿「相楽ホーム」だ。今回のリノベーションにより、2~3畳の各部屋室内の壁面には、新進アーティストたちが「川崎と日進町」をテーマにした絵を描き、築54年の建物に新たな息吹を吹き込んだ。

 ■ツアーの実施も

 同ホームの元オーナーは、自力での運営は難しいと判断し、NENGOに経営権を譲渡。NENGOの意向で、総合旅行業務取扱管理者の資格を持つ吉崎弘記さんが、相楽ホームの執行役員に就任。運営を手がけることになった。

 「ここに来たら、アートの部屋を楽しんでいただきたいが、部屋にこもるのではなく、日進町や川崎の街の魅力を知っていただけるよう、ツアーの実施なども考えていきたい」と夢が広がる。壁面アートを手がけたアーティストたちの絵画など、グッズ販売も行う予定だ。

 今後も継続して手を入れ、アートを入り口に国内外の宿泊者や近隣住民が集い、宿泊者がどんどん川崎の飲食やエンターテインメントを満喫できるよう促して地域活性化の拠点に成長させたい考えだ。

 相楽ホームの元オーナーの女性(62)は「おばあさんの時代からの施設なので、できれば私も続けたかった」とする一方、「利用者の減少もあり、自分だけでは持ちきれない」と判断。若いアーティストのギャラリーや木造の建物で木の良さを子供たちに感じてもらえる遊び場にしたいという意向があったが、こうした再活用に向けた理念が一致したNENGOに売却することにしたという。

 ■市も最大限協力

 女性は「もともと『ドヤ街』のイメージがあるが、文化的な方向に進むよう一石を投じるような施設になったらうれしい」と話す。

 長年、日進町の様子を見てきた県簡易宿泊業生活衛生同業組合の山田欣次理事長は「観光目的などの宿泊客を受け入れたくても、経営者が高齢となり、もう一歩踏み出せずにいた。(今回のように)若い人が新しいことに踏み出し、街を変えてくれることを期待している」と話し、活性化に期待を寄せる。

 市も28年度から川崎駅周辺総合整備計画に、日進町などを含むエリアで既存施設を活用しながらにぎわいを創出することを盛り込んでおり、今回の新施設についても周知などで最大限協力していく方針だ。

 三浦淳副市長は「今回、第一歩を踏み出せたことは大きい。まだ点としての取り組みだが、若者が入ってきてエリア全体の新しい価値が高まることに期待したい」とし、今後も市主催のリノベーションスクール開催などを含め、関心が高まる取り組みに注力する考えだ。

 ■1泊3500円から

 館内のリノベーションはまだ取り組む余地があり、「まさに“日進月歩”で、さらにアートを加えたりしながら来るたびに変化を楽しんでもらえるような施設にしていきたい」(吉崎さん)と意気込む。

 国内では楽天トラベルを通じて予約を取っているほか、海外に向けてはインターネット旅行サイト「ブッキングドットコム」などを通じて予約を取っているという。共同のシャワールームやトイレなどを備え、料金は素泊まり1泊3500円からと割安だ。

 吉崎さんは「15室しかないこともあり、この拠点だけでは正直それほどもうけは出ない。ただ、この拠点から街を変えていきたいという思いが強い。日進町は元々、伝統ある宿場町と聞いているが、まさに『現代の宿場町』にしていく一助になったら」としている。

 簡易宿泊所 旅館業法で定められた4種の旅館業のうちの一つ。同法では「宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」と定義している。多くの日雇い労働者が寝泊まりする簡易宿泊所が立ち並ぶ街は「ドヤ街」と呼ばれたが、最近は単身高齢者の利用も増加している。