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【かながわ美の手帖】横浜美術館「石内都 肌理と写真」展 

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【かながわ美の手帖】
横浜美術館「石内都 肌理と写真」展 

 ■「映える黒」高い評価 時間の経過写し撮る

 国際的に活躍する女性写真家、石内都の大規模個展「石内都 肌理(きめ)と写真」が横浜美術館で開かれている。廃屋の内壁、人の皮膚、織物など、被写体の質感(肌理)を伝える写真約240点が展示されている。自ら暗室で現像することに始まり、横須賀や横浜で撮影したモノクロ写真で名をはせた石内の、40年にわたる活動を振り返っている。

 ◆人の暮らしを想像

 石内が昭和52年に写真家としてデビューする2年ほど前から撮影された「金沢八景」のシリーズは、今回が初公開。独学で現像技術を習得するため、試行錯誤していたころの作品だという。

 同館学芸員の大沢紗蓉子(さよこ)は「感光時間を長めに取っているため黒が映える。評価の高い発色が、すでに確立されつつあったことが分かる」と解説。その上で「撮りたいものを撮り、思ったままの色調で現像できるようになる過程が見られる」と話している。

 数々の作品からは、石内が時間の経過を感じさせるものに心をひかれ、写真に切り取っていることが分かる。駐留米海軍が横浜・本牧の居留地を引きあげてから数年後、廃虚となっていた住宅を撮影した「Bayside Courts」のシリーズもその一つだ。

 天井や壁の塗料が剥がれて、めくれ上がり、一面に花を咲かせているように見える。シーツや布団のない裸のベッドや、床一面に何かが散乱している部屋。生活の息吹は感じられない。

 花形のシールのようなもので彩られた冷蔵庫は、もともとのデザインなのか、あとから貼りつけたものなのかは分からない。ただ、冷蔵庫を日常の一部として、かつてその場所に存在したであろう人の暮らしを想像することができる。

 「1906 to the skin」のシリーズでは高齢の人肌を接写している。興味深いのはその被写体が世界的な舞踏家、大野一雄(平成22年に103歳で死去)ということだ。85歳ごろから3年かけて撮影したという。

 大沢は「戦後、身体表現の分野で革命をもたらした舞踏家。研ぎ澄まされた肉体と、そこに積み重なった時間に被写体としての魅力を感じていたのではないか」と推察している。

 腕を写した1枚は、木の幹のようにも見える。背中には無数のしわが刻まれ、体じゅうにシミが浮き上がっている。加齢という時間の経過が肉体にもたらした変化を捉えている。

 ◆カラーへと転換

 母の死を境に、石内の写真はモノクロからカラーに変わる。「Mother’S」のシリーズで母の遺品を撮影した際、カラーで表現する必要が生じたためだという。

 口紅の先端部分の赤が鮮烈な印象を与える。表面は朽ちてボロボロになっている。闘病が長かったのだろうか、それとも死後に時間がたってから撮影したのだろうか、写真だけでは読み取れない。ただそこには、持ち主が途中で使わなくなり、時間が経過したという事実がはっきりと写し撮られている。=敬称略(外崎晃彦)

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 写真展「石内都 肌理と写真」は横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3の4の1)で3月4日まで。午前10時から午後6時(入館は午後5時半まで)。木曜日休館(3月1日は時間を短縮して開館)。観覧料は一般1500円ほか。問い合わせは同館((電)045・221・0300)。

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【プロフィル】いしうち・みやこ

 写真家。昭和22年、群馬県桐生市に生まれ、幼少から横須賀市で過ごす。多摩美術大学を中退後、写真の現像技術を独学で習得。横須賀や日本各地の旧赤線跡などの建物を撮影した写真で注目を集める。54年に「Apartment」で第4回木村伊兵衛写真賞受賞。平成17年、母の遺品を撮影した「Mother’S」で第51回ベネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出。25年に紫綬褒章受章。