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【栃木この人】飛駒和紙保存会会長・阿部正司さん(72) 紙漉き技術を伝えたい

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【栃木この人】
飛駒和紙保存会会長・阿部正司さん(72) 紙漉き技術を伝えたい

 「スゲタ」と呼ばれる型枠で「漉(す)き舟」に入っているコウゾの溶液をすくっては、その型枠を器用に前後左右に揺り動かす作業を数回、繰り返す。一見、単純作業に見えるが、溶液のすくい方や型枠の動かし方などが微妙に違う。

 「最初は全体に薄く、2回目は奥の部分を厚めにしないと。和紙は均一な厚さで、木目細かく滑らかな仕上がりにしないといけませんから」。作業中と打って変わって、柔和な表情を浮かべた。

 定年退職を間近にした平成17年、知人から「地元に伝わる貴重な飛駒(ひこま)和紙の技術を伝えてくれないか」と頼まれ、「地元のお役に少しでも立てれば」と第二の人生を傾けることにした。幼い頃、母親の実家に遊びに行くと、祖父が紙漉きの作業に精を出していた姿もよみがえり、「背中を押された」と振り返る。

 飛駒和紙は江戸時代初期から盛んで、ピーク時の大正時代には紙漉き屋が24軒もあった。だが、洋紙の普及で需要が減り、昭和43年、一度は姿を消した。平成8年、旧田沼町が貴重な技術を継承しようと飛駒和紙会館(佐野市飛駒町)を整備し、最後の紙漉き職人、森島民司さん(93)らが保存会を結成。阿部さんは森島さんの指導を受けた。

 1枚の和紙を仕上げるまでには気の遠くなる作業が続く。コウゾを刈り取り、釜で蒸して皮をはぎ、乾燥後、表皮だけ包丁でそいでいく。その後も釜で煮て、ごみを取り除き、棒で打ち砕いて他の材料とかき混ぜ、ようやく原料ができあがる。そして、熟練の技を必要とする紙漉き作業となる。「やってみせるから、よく見ていて」と森島さんに言われながら、見よう見まねで技術を覚え込んでいった。

 真夏の時期を除き、会員8人と作業を分担。業務の中心は佐野市内の小中学生向け卒業証書用紙約2400人枚の製作だ。2枚重ねで厚みを出すため、実質4800枚を漉くことになる。「1日30枚前後が限度」なだけに忙しい。その上、26年、和紙がユネスコの無形文化遺産に登録されて以降、注文や問い合わせも相次いでいる。休日返上、夜遅くまで作業に励むこともある。

 年に数回、地元の子供たちに紙漉きを体験してもらう。「無心に取り組む姿を見るとうれしくて。紙漉きをやって良かったと思う」

 懸案の後継者問題も一時、脳裏から離れる至福の時だ。(川岸等)

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【プロフィル】あべ・しょうじ

 昭和20年6月、佐野市生まれ。会社員を定年退職後、平成17年に飛駒和紙保存会に入会。28年4月から会長を務める。佐野市在住。