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【ハイ檀です!】(135)電脳の時代

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【ハイ檀です!】
(135)電脳の時代

妻・晴子の父が使っていたタイプライター 妻・晴子の父が使っていたタイプライター

 最近になって、電力事業に新たな企業が参入したり、都市ガスも似たような動きが見られるようになった。不思議なのは、ガス会社が電気料金を扱ったり、電話会社が電気事業を始め出した。我々夫婦のように歳を重ねた者には、より経済的であるとかポイントが増えるからメリットが大きい、と説明されてもチンプンカンプン。

 さらに、近頃は電話による新手のオレオレ詐欺が横行し始めた。そんな時、いきなり電話かけてきて、電話のシステムを変えないかとか、電気のプランを変更しないかと進言されたとしても、我々の猜疑(さいぎ)心が強くなるばかり。つい先日、妻に有料サイトの料金が支払われていないので至急現金を払い込んで欲しい、と大手通販会社の名前を騙(かた)り代金の請求があった。今日中に支払いがない場合裁判になるので、大至急コンビニで29万円何がしかを振り込め、という無茶苦茶な話。心当たりがないと訴えると、ミスタッチと言うこともあり得るので、その場合は保険が適用されます。一応全額振り込んで頂ければ、後で返金致します、と言う内容。不審に思い納得が行かぬ妻は、僕に受話器を渡した。傍で様子を聞いていた僕は、そのような事実に心当たりはありません、と、冷ややかな声で応答すると、あっ間違えました。ガチャリ。相手は慌てて電話を切り、ジ・エンド。この手の詐欺は急増しているようだが、被害者は老人ばかりではないと聞く。

 世の中、日進月歩という言葉があるが、僕が子供の頃の電話機は、横についているレバーをグルグルと回して交換手を呼び、電話番号を口頭で伝えて相手を呼び出して通話。それがいつの間にかダイアル式に変わり、次はプッシュフォン。昔は必死になって電話番号を覚えたり、住所録に電話番号を控えた。だから、この住所録を紛失すると、命を取られてしまうような焦燥感に襲われパニクった。それが、あっという間に携帯電話となり、電話番号のメモリーも2桁から3桁になり今は制限もなくなった。

 スマートフォンの普及により、電話機がコンピュウタに取って代わり、若者は生活の全てをスマホに託し切っている。そんなことを考えていたのだが、昭和ひと桁から20年代位迄の方々は、急変する文明の利器の対応に翻弄されていたのでは。事実この僕も昭和18年生まれだが、手紙や作文は全て手書き。中学に入り英語の授業を受け、初めてタイプライターに手を触れた。妻の父親は学者だったので、論文は全て英語。論文を提出するために、カーボン紙を用いてコピーを取りながらタイプを打っていたようだ。

 それがいつの間にかワードプロセッサーに取って代わり、コピーはコピー機が普及し簡単に複写が可能になる。そうこうしている間にパソコンが出現、当初は値段も高く大きな物体であったが、いつの間にか持ち運び可能なコンパクトな姿となり、創成期のものに比べ能力も格段に充実し誤作動もほとんどない。しかも、PCに連動したプリンターで簡単にコピーも出来るし、メール機能を駆使して全世界に作成した文章が瞬時に届く。文学に携わる方の中には、頑(かたく)なに原稿用紙に万年筆を用いて作品を認め、編集者に手渡をしする作家も居られるらしいが…。

 そんな文化生活にどうにか対応出来るよう、必死になって暮らしている老夫婦に、新たな試練が訪れた。今まで一つだと思っていた電話会社のシステムが、先方の都合だけで分社化され光ケーブルの器具が変わるという。天井裏には電話会社が取り付けた器具があり、絶対に触らぬよう指示もあった。正月明け早々に電話工事の方がやって来て、部品を交換して説明書を置いて帰った。その説明書と付録のCDを見れば、誰でも簡単に新たな設定が出来るという話。が、我が家のPCには、CDを挿入する場所がない。

 そこでPCに詳しい知人にお願いして、老夫婦が問題なくPCが使えるよう設定して頂いたものの、専門知識がある人間でも悪戦苦闘。ついには新たな助っ人を呼び寄せ、4時間後にようやく開通。こんなことを説明書を1枚配布して終わらせる通信会社の横暴に、怒心頭。世の中便利になり過ぎて、人間の心を失って来たように思える。何だか、アナログではあるが、タイプライターの時代が懐かしく、はたまた恋しく思えて仕方がない今日此頃。

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【プロフィル】だん・たろう

 1943年、作家・檀一雄氏の長男として東京に生まれる。CFプロデューサー、エッセイストとして活躍し、「新・檀流クッキング」などの著書多数。妹は女優の檀ふみさん。