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【評伝】幡谷祐一氏 「正直」貫いた生涯

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【評伝】
幡谷祐一氏 「正直」貫いた生涯

 「正直に生きていれば、怖いものなんてないんだよ」

 水戸支局に勤務した平成25年10月から昨年4月まで、幡谷さんに茨城「正論」友の会会長を務めていただいた縁で、県信用組合の応接室で幾度となく面会する機会に恵まれた。生い立ちや出征当時のこと、政治や茨城県の未来などさまざまな話を直接伺い、折々に口にされた冒頭の言葉が耳に残っている。

 「正しく生きろ」「本業に徹すること」「人はだませても自分をだますことはできない」「上を見れば限りなし。分相応を心掛けよ」。同信組の応接室の壁には、幡谷さんの父で同信組創業者の仙三郎さんの数々の遺訓が掲げられていた。商売の鉄則というだけでなく、幡谷さん自身の哲学だったのだろう。

 「けんしん」グループを率いる地域経済界の大立者だったと同時に、80歳を過ぎて大学院で勉学の道を志すなど、生涯にわたって学ぶ姿勢を貫いた。

 新しい知識を得ることにも貪欲で、毎朝起床すると必ず産経新聞を読むと教えてくれた。「僕は必ず産経抄から読む。きょうのは良かった」などと、お目にかかると必ず産経抄の話題に触れた。

 25年1月に発足した茨城「正論」友の会の会長には、前任の支局長のたっての依頼で就任していただいた。訃報を聞き、胸にはひたすら感謝の思いしかない。

 幡谷さんが晩年、力を注いだ一つに、県内の小中高校での道徳の授業がある。「恕(じょ)」という言葉をとくに大切にし、子供たちに穏やかに語りかけた。恕の意味は「相手を思いやること」。孔子が生きる上でもっとも大切だと説いたとされ、漢詩を愛した幡谷さんの人柄がしのばれる。

 授業のお返しにと、子供たち一人一人が感謝の気持ちをしたためたお礼状を「うれしい」と宝物のように大事にされていた。

 「自らを律し、正直に謙虚に生きなさい」。幡谷さんは、故郷茨城の子供たちにこのことを伝えたかったのだろうと思う。(前水戸支局長 北村豊)