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興福寺中金堂10月落慶 多川俊映貫首「今の世に天平の時代精神を」

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興福寺中金堂10月落慶 多川俊映貫首「今の世に天平の時代精神を」

 興福寺(奈良市)の中枢である中金堂がほぼ完成し、今年10月に落慶する。奈良時代に創建されたが7回も焼失し、今回の再建は江戸時代の焼失後300年来の悲願だ。創建当初と同規模の幅約37メートル、奥行き約23メートル、高さ約21メートルで、東大寺大仏殿に次ぐ巨大な木造建築となる。古都の玄関口に当たる同寺の景観が大きく様変わりする中、多川俊映貫首(かんす)(70)に中金堂に寄せる思いを訊いた。(聞き手 岩口利一)

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 --いよいよ中金堂が落慶を迎えますが、ご心境は

 「平成元年に貫首に就任した際、改めて境内を見渡すと明治以来の公園的形状で、森の中にお堂が点在しているまとまりのない状態だった。それで、参拝者に少しでも天平期の雰囲気を感じてもらえるよう境内づくりをしようと思ったのです」

 --それで中金堂の再建ですか

 「中核となる中金堂を再建し、それをきっかけに天平の文化空間の再構成を進めたいと考えた。四半世紀かかったが、いい状況で再建できてありがたい。少しは天平の寺らしくなるかと思います」

 --再建では木材の確保に苦労されたそうですね

 「もちろん国内産を使いたかったが、直径約80センチ、長さ約10メートルの巨大な柱に使えるような大木の確保は今では困難。直径約60センチ、長さ約5メートルのものも含めると柱は計66本にもなる。瀧川寺社建築(桜井市)に相談する中で、カメルーンのケヤキでやったらどうかという話になった。冒険だったが、木材が手に入ったので再建にこぎつけられた」

 --堂内にはどのような仏像が安置されますか

 「本尊は仮金堂に安置していた江戸時代の釈迦如来坐像。いい造りの仏像で、金箔を貼り直して化粧直しもした。それに薬王(やくおう)・薬上(やくじょう)菩薩立像(重文)、吉祥天倚(きっしょうてんい)像(重文)、大黒天立像(重文)、四天王立像(国宝)。日本画家、畠中光享(はたなかこうきょう)さんが法相(ほっそう)宗の祖師を描いた柱絵も礼拝対象です」

 --落慶を通じて何を発信したいですか

 「天平の時代精神。言葉で表すと、「端正」「典雅」「剛勁(ごうけい)」かと思う。「剛勁」はしなやかで強いといった意味。当時の阿修羅(あしゅら)像(国宝)や正倉院の天平写経、それに五重塔(国宝)を見ているとそう思う。今の日本はそうした時代精神に近づいた方がいい気がします」

 --中金堂以外にも再建を計画されていますか

 「伽藍(がらん)復興は、中金堂の落慶以降が本格的になるとも言える。藤原不比等(ふひと)が本願の寺なので、次はできれば(不比等の1周忌に建てられた)北円堂(国宝)の回廊や南門を再建したい。中金堂の次の夢で、五重塔の調査・修理をみながらになりますが」

 --今年は、春日大社本殿も創建1250年を迎えます。藤原氏ゆかりの春日社、興福寺は一体に歩み、神仏習合の歴史があります

 「もう一度、神仏習合の良さを見直していただきたい。その良さとは、多様性の尊重ということに尽きる。春日大社とともに、こうした神仏習合を見直すきっかけをつくれればと思います」

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【用語解説】興福寺中金堂

 3つの金堂があったうちの中心。奈良時代に建てられて以降、平氏の焼き討ちや火災で7回焼失。その度に再建されたが、江戸時代の焼失後は建てられず、仮の建物のままだった。中金堂の落慶法要は10月7~11日に営まれ、同20日から一般拝観が始まる。