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【今こそ知りたい幕末明治】龍馬と慎太郎 九州国事周旋の旅

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【今こそ知りたい幕末明治】
龍馬と慎太郎 九州国事周旋の旅

太宰府天満宮参道の大町旅館街。泉屋は現在、御菓子処「梅園」となっている 太宰府天満宮参道の大町旅館街。泉屋は現在、御菓子処「梅園」となっている

 坂本龍馬に中岡慎太郎。2人は脱藩した元土佐藩士で、勤王活動に身を捧(ささ)げ、薩摩や長州など諸藩との連絡調整の仲介、国事周旋に奔走した。彼らの名前を知らない方はいないだろう。この2人は鹿児島や長崎、熊本、太宰府など九州の地とたいへんゆかりが深い。今回は、彼らの日記などの記録から、そのゆかりの地と足跡をご紹介したい。

 幕末、公武合体派による8月18日の政変で、都落ちした尊王攘夷派の公家7人のうち三条実美、三条西季知、四条隆謌、東久世通禧、壬生基修の5人が長州藩から福岡藩領、太宰府に移転(五卿の西遷)し、延寿王院(現在の太宰府天満宮境内)に約3年間滞在した。この間、薩摩、肥後熊本、久留米、肥前佐賀、福岡の5藩が五卿の警衛にあたった。また薩摩藩の西郷隆盛、長州藩の桂小五郎(木戸孝允)、伊藤俊輔(博文)ら多くの志士が訪れ、太宰府は、後に維新の策源地とも称される活動拠点となったことは、すでにご紹介した。

 この太宰府の地が龍馬や慎太郎と、多くの志士を邂逅(かいこう)させ、薩長同盟など維新回天へ導いていく場所になった。

 禁門の変や第一次長州征伐以降、「薩長筑一和」その中でも、薩摩と長州の講和・和解が不可欠として、福岡藩の月形洗蔵や早川勇、大村藩の渡辺昇らが周旋にあたった。その頃の慶応元(1865)年、坂本龍馬が太宰府を訪れた。龍馬の日記「坂本龍馬手帳摘要」(宮地佐一郎『龍馬の手紙』講談社)によれば、5月16日に鹿府(鹿児島)を出発、伊集院、市来港、川内宿を経て、17日に薩摩街道沿いの大川(阿久根市)に宿泊、阿久根宿を経て野田、泉(出水)米ノ津から出港し船で移動している。19日に熊本に上陸しているが、その前後の状況は詳細不明である。

 龍馬は23日に児玉直右衛門(出水米ノ津の町役人)に付き添われ太宰府へ到着し、五卿の警衛で太宰府に滞在していた薩摩藩士の渋谷彦助(彦介)に面会している。24日に三条実美(伝法)に延寿王院で拝謁、太宰府に来ていた長州藩の小田村素太郎(後の楫取(かとり)素彦)に面会した。25、27日にも三条実美や東久世通禧ら五卿に拝謁したようで、東久世通禧の日記「東久世伯爵公用雑記」には「五月廿五(25)日 土州藩坂本龍馬面会、偉人ナリ奇説家ナリ」と龍馬の印象が記されている。龍馬はこの後28日に五卿随従者の安芸守衛(黒岩直方)と共に太宰府を出発し、山家から冷水峠を越え、内野、飯塚、木屋瀬、黒崎と長崎街道筑前六宿筋を移動した。黒崎から下関(赤間関、馬関とも)へと渡った。

 この一連の国事周旋が、犬猿の仲であった薩長両藩を同盟させる布石を築いたと後に評価され、翌慶応2(1866)年1月、龍馬の仲介で薩長同盟が成立したという運びになる。

 一方、中岡慎太郎は、五卿の随従者として太宰府に滞在しつつ、石川誠之助(清之助)や大山彦太郎とも変名し、五卿の意を受け、薩摩や長州、長崎、京都など各地を奔走していた。彼の日記「海西雑記・行行筆記」(尾崎卓爾『中岡慎太郎先生』)や土方久元『回天実記』に、国事周旋の足跡がうかがえる。龍馬も酒豪で宴会好きで知られるが、中岡慎太郎も酒好きだったようで、「阿久根に達孫兵衛宅に投じ焼酎を飲む、所謂(いわゆる)阿久根焼酎を飲む」(慶応3年2月20日)という記事があり、薩摩藩主に献上され、「諸白」と称賛された名酒、阿久根焼酎を賞味している。また慎太郎の日記には「対人(対馬)四及び筑人薩人等と泉屋にて出会・此夜、筑薩肥後酒を此別れに飲む」(同元年3月9日)や「白水楼に別酌す」(同3年2月27日)など、酒を交えた会合・交流に関する記述も多い。

 「泉屋」「白水楼」は、太宰府天満宮参道の大町旅館街にあった旅館泉屋(和泉屋)で、現在は太宰府名物の和菓子「宝満山」や「うその餅」、太宰府天満宮御用達でも有名な菓子店の御菓子処・梅園である。泉屋は並んであった松屋や大野屋などと同様、土方久元の「回天実記」でも、薩摩藩や肥後藩など志士、同志たちの会合の場所や「別酌・別杯」いわゆる送別会・懇親会の場所として度々出てくる。

 今年は明治維新150年の記念の年、また今年の元日は旧暦で11月15日、150年目の2人の命日でもある。私もご縁があって、全国龍馬社中福岡龍馬会に加盟し、坂本龍馬や中岡慎太郎の生きた時代、2人の足跡や人物像、その生き方や志などについて、同志の方々と語り合いながら学んでいる。この機会に幕末の歴史浪漫にひたりながら、太宰府や阿久根など2人のゆかりの地や足跡を訪ね、再発見していただきたい。

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 たけがわ・かつゆき 昭和48年、福岡県飯塚市生まれ。鹿児島大、同大学院修士課程、九州大大学院博士課程などを経て、日本経済大学経済学科准教授。専門は日本近世史と九州の郷土史。特に幕末の太宰府と五卿の西遷、志士の国事周旋の旅などを調査研究。著書(共編著)に「アクロス福岡文化誌9福岡県の幕末維新」(海鳥社)など。