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【夢を追う】九州大「起業部」顧問・熊野正樹さん(3)起業の現場から教壇へ

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【夢を追う】
九州大「起業部」顧問・熊野正樹さん(3)起業の現場から教壇へ

起業家育成プログラムを開発し、学生に教える 起業家育成プログラムを開発し、学生に教える

 《起業家として歩みながら、恩師の勧めで研究も続けた》

 自分の会社を興したのが平成17年ですが、起業前に「せっかく起業の現場を実体験するのだから、研究を続けてはどうか」と、ありがたい誘いを受けました。

 会社を経営しながら18年4月から22年3月末まで、同志社大大学院の博士課程で論文に取り組んだ。タイトルは「ベンチャー起業家社会の実現~起業家教育とエコシステムの構築」です。

 ベンチャーの研究者は数多くいますが、「起業家教育」がテーマの博士論文は私だけではないかと思います。

 《同志社大の教壇にも立った。少年時代から抱くもう一つの夢「教員」の道も開けた》

 22年の4月から3年間の任期付きで、同志社大の商学部専任講師を務めました。初めて講義をしたときのワクワクドキドキ感は今も忘れられません。

 3年やって終わったら、会社に戻り、会社をさらに大きくしようと考えていましたが、教育に目覚めてしまった。

 きっかけは2つあったように思います。

 第1に、自らの経験から、日本の起業家教育が理論ばかりでリアルでないと感じたことです。起業家教育が、リーダーシップ教育になってしまい、実際の起業に直結しない。

 起業家の精神は、経験しないと身につかないし、理論だけを教えることの無意味さに、いらだちを覚えました。

 このままでは学生たちの才能をつぶしてしまうのではないか。ならば私がと、使命感にかられました。

 教育に目覚めた2番目のきっかけは学生です。目をきらきら輝かせ、講義を聴いてくれる。私の知識や経験を、この若者の役に立てることができる。それがうれしかった。「教育」という道で生きていこうと決めるのに、十分過ぎるほどの感動でした。

 《熊本市の崇城大の教員となる》

 崇城大は起業家教育に力を入れようとしていた。教員を公募しているのを知り、手を挙げました。中山峰男学長(70)の面接を受け、意気投合した。26年4月に准教授として着任しました。

 中山学長には「自由にやって良し」と応援していただき、博士論文をベースに「起業家育成プログラム」を開発しました。

 プログラムは、講義科目▽部活動▽学生起業支援-の3本柱です。私の受け持ちは1年生向けの科目「ベンチャー起業論」。自由選択の科目にかかわらず、新入生800人中400人が受講してくれた。学生の起業への関心の高さを感じました。

 その中から、「実際に起業したい」という学生も出てきたので、部活動として「起業部」を設立しました。

 どこの大学にも学生主体の起業サークルはあるようですが、私がこだわったのは「部活」。教員がしっかりノウハウを伝え、大学側も支援する。地方ではベンチャー起業家は少数で、ロールモデル(手本)も少ない。だったら、熊本でロールモデルになるような起業家を育てようと考えたのです。

 《崇城大起業家教育で大きな成果を残した》

 起業部では、東京や海外から起業家を呼び、生の声を聞く機会を設けました。

 起業第1号は南米コロンビアで日本のカレーを売るビジネスです。その学生は母がコロンビア人、父が日本人です。年に何回かコロンビアに行った際、日本土産として持参したカレーが大好評で、そこに目を付けたのです。

 他の学生も、国内の名だたる大学が集まるようなビジネスプランコンテストに出場し、全国大会で活躍しました。

 私自身も、経済産業省が主催する平成27年の「大学ベンチャーグランプリ」で「最優秀教員賞」に選ばれました。

 やってきたことが評価され、うれしかった。崇城大は任期満了をもって退任しましたが、起業家育成プログラムをさらに進化させたいと考えました。