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【NIE先生のなるほどコラム】159時間目 台湾人との議論 「日本語世代」の言葉に胸熱く

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【NIE先生のなるほどコラム】
159時間目 台湾人との議論 「日本語世代」の言葉に胸熱く

 この夏、私は台湾を訪ねました。秋に台北の日本人学校(在外教育施設)で社会科の公開授業を行うことになり、その事前準備のためです。授業は文科省の科学研究事業の一環という位置づけで、そのために尽力された群馬大名誉教授で東京未来大の所澤潤教授(教育学)らと一緒の旅でした。

 定刻より40分遅れで羽田空港を離陸した全日空機は2時間半ほどで台北上空に到着し、松山(ソンシャン)空港への着陸前、空港や滑走路周辺を機内から撮影しないよう求めるアナウンスに、空港が軍民併用の基地でもあることを思い出しました。見ると、滑走路横には小高い山が連なり横風を受けにくい好立地です。旧日本陸軍が飛行場として使用したことも、うなずけます。

 台湾には戦前、日本統治下の教育を受けた「日本語世代」と呼ばれる人々がいます。所澤教授は80代を迎えた、こうした世代から口述筆記の形で当時の模様を聞く活動も行っていて、私も同席させてもらいました。

 藍昭光(ランショウコウ)さん、89歳。終戦当時は16歳で旧日本陸軍に所属し、戦後は京都大法学部へ進み、今も法律関係の仕事を続ける現役です。眼光鋭く、流暢(りゅうちょう)な日本語で当時のことから現在の日本の状況まで歯にきぬ着せぬ物言いで語る、実直そうな方でした。

 さすが旧日本陸軍所属だけあって、往時のことで口をついて出るのは「隼(はやぶさ)」や「鍾馗(しょうき)」といった陸軍の名戦闘機の性能やエンジン音で、「金属的な甲高いエンジン音は聞いただけで、すぐに『飛燕』と分かった」などと事細かく話しました。

 旧日本海軍の名機「零戦」については「台南の海軍基地に常駐しフィリピン方面に出撃していた」。ただ「零戦は名機だが軽量化のせいで被弾に弱い。やはり陸軍の『隼』の方が上だ」と繰り返す。旧軍関係者も海軍は「零戦」を、陸軍は「隼」を推します。藍氏も同様でした。

 懐旧談がひと段落すると、藍氏は「ところで、日本は憲法9条をどう改正するつもりか」と切り出しました。9条の1項、2項はそのままで、新たに自衛隊を明記した条項を加えるという安倍首相の意向を伝えると、「第2項の戦力不保持、交戦権放棄と新たな自衛隊条項とは後々、整合性が議論されるのは必定だ。もう少し検討した方がいい」。そう力説するのです。

 さらに中国による尖閣諸島への日常的な領海侵犯、北朝鮮による日本の排他的経済水域へのミサイル発射という日本の安全保障にかかわる最近の重大事案を挙げて、「これらは日本が憲法9条により何も手出しができず、傍観しかできないことを知ったうえでの挑発行為だ」と断じ、終戦記念日周辺の国会議員による靖国神社参拝についても「他国が口をはさむことではない」と語っていました。

 中国との関係をめぐって台湾は今、日本以上の激論と緊迫の中にあります。日本語世代ではない50代の大学教授は藍氏と同じ独立志向で、「吸収されたら香港と同じになる」と危機感を露わにし、逆に中国との協調を唱える70代の男性は「香港化」に目をつり上げ反論しました。

 「日本は大丈夫なのか」「もっとしっかりしてくれ」。藍氏の言葉の端々からは、かつて一緒に戦った日本への期待感も感じました。9条2項の扱いなどで藍氏と異なる意見の私とは、ときに激しい言葉のやりとりもありましたが、親日台湾の中核ともいえる「日本語世代」の、わが国に寄せる思いに胸が熱くなったのも確かです。国防、そして憲法と国民自ら考えることの重みを再認識したのです。(石田成人・東京未来大非常勤講師)