産経ニュース

【かながわ美の手帖】岡田美術館 歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」

地方 地方

記事詳細

更新

【かながわ美の手帖】
岡田美術館 歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」

 ■遊興の場描く3部作 肉筆画の筆違い確認

 江戸時代中・後期の浮世絵師、喜多川歌麿の「雪月花」3部作を鑑賞できる特別展「歌麿大作『深川の雪』と『吉原の花』」が箱根の岡田美術館で開かれている。「深川の雪」を収蔵する同美術館が米国から「吉原の花」を借り受け、2作が138年ぶりに同じ場所で展示される。「品川の月」の原寸大高精細複製画とともに公開し、3部作の見比べや肉筆画の筆遣いを確認できるなど、見どころは多い。

 ◆美人画の大家が手腕

 3部作は明治12(1879)年に栃木県内の寺でそろって展示されてから、いずれも海外に流出した。「雪」だけが昭和14年に日本に持ち帰られたが、27年以降、平成24年までの約60年間、行方不明となっていた。「花」は美術商の手を渡り、現在、米コネティカット州の美術館が収蔵。「月」はワシントンDCの美術館が館外不出の収蔵品としている。

 歌麿の浮世絵は2千点以上の作品が版画だが、3部作は肉筆画。約40点しか現存しない肉筆画のなかでも、3部作は横幅約2~3メートル、縦約1~2メートルという特大サイズだ。3枚を連ねて掲げる展覧会場では、その迫力が来場者を圧倒している。

 制作順は月、花、雪といわれる。「月」は飯(めし)盛(もり)女の接待が黙認されていた宿場町の品川、「花」は幕府が公認した遊郭の吉原、「雪」は芸者の町だった深川。江戸を代表する3種の遊興の場を題材に、美人画の大家が肉筆画で手腕を振るった。

 「月」は、品川で「土蔵相模」と呼ばれた妓(ぎ)楼(ろう)の座敷。画中には女性19人が登場し、障子には男性の影が映る。食事を運ぶ者、手紙を書く者、三味線や琴で合奏する者など、女性らは思い思いの時間を過ごしている。縁側の向こうは海。うっすらと月が浮かび、全体的に静かで落ち着いた雰囲気を伝えている。

 一方、「花」は着物やちょうちんの鮮明な赤が印象深い作品。3部作のなかで一番多い52人の女性を登場させ、吉原の華やかさを表している。庭に咲く桜の下には、遊女を引き連れて歩くおいらん道中が描かれている。細部まで丁寧に描かれた着物の柄にも注目だ。

 ◆温度感が伝わる作品

 「雪」は、深川の料亭内で飲食の準備や遊びに興じる芸者が生き生きと描かれている。中庭の松に雪が積もり、室内では芸者たちが火鉢を囲む。吹き込んでくる冷たい風や室内の暖かさを感じさせる作品だ。

 「雪」は、「月」の静けさと「花」の華やかさを兼ね備えている。岡田美術館学芸員の稲(いな)墻(がき)朋子は「歌麿の最晩年の作。晩年は画力が落ちたとされていた定説が、この肉筆画の発見により覆された傑作だ」と解説している。

 特別展ではこのほか、同館が収蔵する歌麿の肉筆画2点も公開している。

 稲墻は「肉筆画は版画よりも技量がはっきり表れる。3部作はそれぞれに違った魅力があり、見る人によって感想が大きく異なるのもおもしろい」と話し、来館を呼びかけている。 =敬称略(外崎晃彦)

                   ◇

 特別展「歌麿大作『深川の雪』と『吉原の花』-138年ぶりの夢の再会-」は岡田美術館(箱根町小涌谷493の1)で10月29日まで。午前9時から午後5時(入館は午後4時半まで)。会期中は無休。入館料は一般・大学生2800円ほか。問い合わせは同館((電)0460・87・3931)。

                   ◇

【用語解説】喜多川歌麿

 江戸時代中・後期の浮世絵師。生年は不明だが1753年ごろが有力。美人画家として葛飾北斎と並び海外でも名をはせた。版画の作品は2000点を超える。代表作に「寛政三美人」「ビードロを吹く娘」など。肉筆画の「雪月花」3部作はいずれも栃木の豪商・善野家の依頼を受けて描かれたといわれている。1806年死去。