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【夢を追う】ツシマヤマネコ飼育員・永尾英史さん(3)命の大切さ伝える

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【夢を追う】
ツシマヤマネコ飼育員・永尾英史さん(3)命の大切さ伝える

飼育員駆け出しのころ。人前に立つと緊張した 飼育員駆け出しのころ。人前に立つと緊張した

 《平成8年、飼育員として動物園に入った。慣れない仕事に、悪戦苦闘した》

 高校卒業後に専門学校に入り、公務員を目指しました。飼育員になりたかったわけではありませんが、母親が新聞で「飼育員募集」という小さな記事を見つけ、受けたら採用が決まりました。

 150人ほど受けて、採用は3人でした。ほっとしましたが、飼育の特別な技能はなく、完全に素人です。

 最初の担当は、園内にある「こども動物園」です。ウサギやモルモット、ヤギなど、それほど危険ではない動物と、子供らが触れ合う「ふれあい教室」を開いていました。

 動物の説明をして実際に触ってもらうのですが、人前に出るのが好きではありません。子供向けの言葉を使ってしゃべるのも、苦手でした。本音をいうと「やりたくないな」と思い、用意されたマニュアルを読むだけでした。

 そんなとき、先輩から「命の大切さを教える大事な仕事だ」と説教されました。

 聴診器を使って動物の鼓動を聞かせるのですが、幼稚園児や養護学校の生徒は、心音を聞くと、表情がぱっと明るくなるんです。動物と接して、何か感じるものがあるのでしょう。そんな姿を見ているうちに、「人も動物も、心臓が動いて生きているんだよ。血が流れて温かいんだよ」と、マニュアルではなく、少しずつ自分の言葉で語れるようになりました。

 《飼育員の仕事は体力勝負だと知った》

 最初はとにかくきつかった。体力はあるつもりだったんですが、フンのにおいはきついし、30キロもあるエサの干し草を運ばないといけない。力仕事ばっかりです。精神的なつらさもあったのか、食事がのどを通らなくなり、最初の年の夏までに10キロやせました。

 失敗もしました。キリンの水飲み場は、大きくて水がたまるのに時間がかる。蛇口を開けたまま別の作業をしていたら、あふれて寝室が水浸しになりました。エサの肉を切っていて、包丁で手を切ったことも。いろんな作業を同時並行でやるので、大変でしたね。

 先輩は厳しかった。大型動物の飼育は、一歩間違えれば大事故につながります。動物ごとの接し方から、草を刈る鎌の使い方まで、先輩を参考に、覚えました。

 ただ、つらくても、やめたいと思ったことはありませんでした。動物園に入った初日に、ヒツジが出産したのです。赤ちゃんのべたべたの体をなめる親の姿、立ち上がる子供の姿を見て、感動しました。春は出産ラッシュで、ヤギやウサギやモルモットの出産にも立ち会いました。子供はかわいい。それが喜びでした。

 あまり知られていないのが「動物の最後」です。大きな動物が死んだときは、そのままでは焼却できず、飼育員が解剖するんです。サイやキリン、シロクマ、カバ、いろんな動物を解剖しました。肉をはぐ作業は、においもきつくて大変です。骨格標本を作る場合は、解体して土に埋めます。

 《さまざまな動物を担当し、それぞれの魅力を知った》

 チンパンジーは、飼育員が新人と分かったらばかにして、ツバをかけてきます。担当者を試すんですよね。リアクションを楽しんでいるのが分かったので、知らんふりをしていると、しなくなりました。ゴリラは、じーっとこちらを観察してきます。油断するとすごい力で襲われることもあるので、施錠を何度も何度も確認します。大きな動物を担当し、少しずつ飼育員としての自信を付けました。

 飼育員として大切なのは観察力です。エサの食べ方が普段と違うとか、目力がどうかとか、体調管理には、注意深く見ていくことが欠かせません。

 動物の立場に立つことも必要です。ウサギなど、あまり触りすぎない方がいい動物もいます。時間があれば本を読んで生態を調べたり、大型霊長類の会議に参加したりして、理解を深めました。