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中越沖地震あす10年 復興恩返しへ大吟醸「至宝」 新潟

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中越沖地震あす10年 復興恩返しへ大吟醸「至宝」 新潟

 ■被災の酒蔵、無傷タンクで10年熟成

 県内で15人の死者、2300人を超える負傷者を出した平成19年の中越沖地震から16日で10年を迎える。震度6強の揺れに襲われ、酒蔵などが全壊した原酒造(柏崎市新橋)は、無傷で見つかった新酒のタンクで10年熟成させた純米大吟醸「蔵の至宝」の販売を始めた。一方、福厳院(ふくごんいん)(同市東本町)の栗林文英(ぶんえい)住職は、全壊した本堂で使われていたケヤキなどで作った楽器「コカリナ」の演奏を通じ、復興の喜びとともに震災が風化しないように記憶を伝える活動を続けている。 (松崎翼、太田泰)

 「昨日の出来事のようでもあり、とても長い山道を歩いてきた気もする」

 原酒造の原吉隆社長(59)は、会社の再建に向けて力を尽くしてきた10年間をこう振り返る。

 地震が起きたのは3連休の最終日。会社近くの自宅で野球中継をテレビで観戦中、すさまじい揺れとともに「ミサイルでも落ちたのか」と思えるような「ズドン」という轟音(ごうおん)が響いた。ヘルメットを持って駆けつけると、5棟の酒蔵や事務所などが崩れ、社屋の約3分の2が全半壊した光景が目の前に広がっていた。

 被害総額は10億円以上。大きな不安に襲われたものの「(創業から)200年の歴史を1分ほどの地震で崩されてたまるか」と怒りに近い感情がわき起こり、再建を心に誓った。

 翌日には社員約50人と社員の家族全員の無事が確認された。出社した社員らを前に原社長は「被害は大きいが、大丈夫だ。みんなで力を合わせて再建するぞ」と激励し、社員とともに復興へと突き進んできた。

 がれきの撤去を進める中、絞ったばかりの新酒を入れたタンク1つが奇跡的に無傷で見つかった。すぐに場所を移し、大切に保管してきた酒は10年の歳月を経て最高の仕上がりになった。「蔵の至宝」と名付け、1200本限定で今月10日に販売を始めた。720ミリリットル入りで価格は税別7千円。まろやかで柔らかな舌触りが特長という。

 原社長は「販売するのは少し寂しい気持ちもあるが、支援してくれた多くの方への感謝の気持ちがこもったお酒」と話す。「これで復興の時代は終わった。まだ力不足だが、これからは恩返しを意識した経営を進め、柏崎の経済を支えられるような会社になりたい」と語った。

                   ◇

 ◆「忘れない」気持ち音楽で 福厳院の栗林住職

 「10年という月日は長く感じられた。大変だったが、いろいろな人に協力していただき、本堂も地震から3年で再建できた」。福厳院の栗林住職は震災後の日々を、こう振り返った。

 栗林住職は、寺の境内にある住まいで法衣に着替えているところだった。床から「ドーン」と突き上げるような衝撃に見舞われ、その場に伏せたところ、タンスが上から覆いかぶさってきた。必死になって何とか抜け出して廊下に出ると、ほこりで目の前は真っ白。家族と一緒に外に逃げ出すと、大きく傾いた本堂が目に飛び込んできた。墓地に座り込みながら、壊れた本堂を栗林住職らは茫然(ぼうぜん)と眺めていたという。

 栗林住職は地震の1年前から、ハンガリーの民族楽器が発祥の木製の笛「コカリナ」の愛好者団体「柏崎コカリナクラブ」のメンバーとして活動していた。震災後の混乱で一時はクラブの解散も検討したという。それでも半年後、練習場所だった本堂の代わりに、被害を免れた寺の倉庫で練習を再開。その後、これまでコンサートを定期的に開いてきた。

 今年6月18日にはコカリナの第一人者で音楽家の黒坂黒太郎氏を招き、震災復興コンサートを開催。代表を務める栗林住職は「震災を風化させないように私たち自身が『忘れない』ことが大切。次々と起こる災害からの復興を願い、同じ被災者として『負けない』『あきらめない』ことを音楽を通して伝えたい」とのメッセージを発信した。

 本堂に使われていたケヤキの木や、地震の影響で海から見つかった縄文時代の樹木から作ったコカリナでの演奏も披露され、約150人の聴衆が聞き入った。

 栗林住職は「解散せず、震災を乗り越えられて本当によかった。これからも楽しんでもらえる合奏団を目指す」と話した。