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【ハイ檀です!】イングリッシュガーデン

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【ハイ檀です!】
イングリッシュガーデン

退院祝いのように咲き誇ったナニワノイバラ 退院祝いのように咲き誇ったナニワノイバラ

 世の中には、大殺界だの天中殺といった物騒な言葉が存在する。僕は占いに関しては全く信じていないので気にならないが、占いを信じていらっしゃる方々にとってはかなり重い言葉なのだろう。ともあれ、人生の中で何回か経験する、運の悪い日とか間の悪い時期という風にだけと解釈している。

 と、申す我が身に、昨年の9月頃からつい先日迄(まで)の間、とんでもない災難が押し寄せた。よく言う大殺界だったのかそれとも天中殺だったのか、2回の外科手術を受ける羽目になってしまった。自覚症状は全くなかったのだが、年に2回行っている定期的検診で、左右の胸に気になる影があるのでPET検査を行いましょうということに相成った。その結果、左胸より右胸の方の影が気になりますので手術いたします、という至って冷静な診断。

 何と、3日後に入院して翌日手術。結果は、ガンではなく肺結核と判明。それも幼児期に母リツ子から感染し、病気は静かに潜伏していたらしい。正式な病名は、陳旧性(ちんきゅうせい)結核。思い起こせば、小学校低学年の頃に小児結核の疑いとかで、体育の授業は見学をさせられていたことを思い出す。ガンではなかったものの、結核との診断で病院内は大騒動。もし伝染の可能性がある開放性の結核であれば、結核専門の病院に転院して療養する必要があるとか。結核は、法定伝染病なのである。

 幸い、他人には感染しない結核ということで、9カ月間薬を飲み続ける条件で、執行猶予的な自由を与えられ退院。が、3月末の定期検診で、左肺の影が成長している兆しがありますので手術しましょう、と、またもや入院手術の宣告。しかし、メスを入れて組織を検査したのだが、今回は結核ではなくガンとの診断。最近話題の、歌舞伎役者の中村獅童さんとほぼ同じような病状であろうか。術後の説明では、ガンそのものは大変に小さくステージ1でしょうとのこと。

 が、左肺のリンパ付近にまたしても、母リツ子の亡霊が潜んでいた。今回は結核ではなかったが、数カ所に結核の病巣が石灰化して石のように固まっていたとか。勿論切除したのだが、その一つがリンパの近くにある声帯神経に癒着し、手術の際に多少触れた可能性があるとか。

 結果、麻酔が覚めて気がついたら、声が出ないのである。耳鼻咽喉科の診断では、声帯の片側が麻痺して動かない為に、息が漏れてしまって声が出ないのだとか。自然治癒もあるが、3カ月待って進展しない場合は、声帯が閉じるようにする手術をするとのこと。ともかく、声を失ったまま失意の帰宅。

 20日間近く放置していた家の周りは、数日の雨の力と上昇した気温の助けがあったのだろう、見事なほどに伸び放題。ノアザミ、ダイコンの花、キンポウゲ、タンポポ等々と、野の花がこれでもかこれでもかと咲きまくっていた。野の花は、植えた花のような華やかさはないものの、清楚で優しい美しさに溢(あふ)れている。入院中に生花の籠が幾つか届き、目の保養をさせて頂いた。が、我が家に戻ったら、野の花達がイングリッシュガーデン風のお出迎えをしてくれたのである。

 中でも驚いたのは、ナニワノイバラの花の見事なこと。現在の家に移住し、細君のたっての希望で3株のナニワノイバラの苗を植えた。3年目あたりから白い清らかな花をポチポチと咲かせ、多いに楽しませてくれてはいるものの棘(とげ)は鋭くて痛い。手入れをする際に、鍋つかみのような分厚い手袋を用いたとしても、指に棘が刺さり手入れが難しい。結局、家の出入り口近くに植えた2本は、かなり大胆にトリミング。それでも、いつの間にか大きく伸び花を咲かせる。もう1本は家の外壁にネットを張り、そこに這わせるように植えてみた。いつの日か、家の土台のコンクリートの壁面を美しく彩ってくれるだろうと期待してである。

 この計画が、見事に功を奏した。病院で疲弊し自宅に辿(たど)り着いた僕を、くしゃくしゃの笑顔にしてくれるような素晴らしい歓迎ぶりであった。野の草花やナニワノイバラのように、一年の大半は邪魔者扱いされてしまう植物も、ある瞬間信じられない輝きを見せることがある。それらを巧みに取り込んだ庭が、真のイングリッシュガーデンのよう思えて来た。僕自身も、大輪の花ではなく、キラリとした花を咲かせようと企んでいる。

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【プロフィル】

 だん・たろう 1943年、作家・檀一雄氏の長男として東京に生まれる。CFプロデューサー、エッセイストとして活躍し、「新・檀流クッキング」などの著書多数。妹は女優の檀ふみさん。