産経ニュース

【大潟村はいま 農業の将来像を問う】(上)「グルテンフリー」市場狙え

地方 地方

記事詳細

更新

【大潟村はいま 農業の将来像を問う】
(上)「グルテンフリー」市場狙え

 ■米粉、6次産業化に活路

 今年1月、米ボストンの名門ハーバード大の大学院ビジネススクール。世界中のエグゼクティブ向けに経営学修士と同等の授業を行う「EMBAコース」に、1人の生産者が招かれた。

 秋田県の大潟村あきたこまち生産者協会の涌井徹社長(68)だ。涌井氏は発芽玄米の米粉を原材料とするパスタ製品について講演し、参加者の質問攻めにあった。キーワードは「グルテンフリー」。

 グルテンは小麦粉に含まれるタンパク質の一種で、パンやうどんのモチモチ感のもととなるが、米国では近年、グルテンを取らない食習慣が健康や美容に良いと話題になっている。

 米粉にグルテンは含まれない。あきたこまち生産者協会では昨年からグルテンフリーのマカロニやペンネなどを生産。コメのピューレでとろみをつけたパスタソースも併せて開発した。

 国内の主要スーパーマーケットで取り扱うほか、海外でも米食品チェーンのホールフーズ・マーケットやイタリアの有名レストランなどと商談が進む。並行してユダヤ教の「コーシャ」やイスラム教の「ハラル」など宗教の協議にのっとった認証の取得を急ぐ。「ほとんど認証の不要な日本市場が、いかに『ガラパゴス』であるかを思い知った」と涌井氏はぼやいた。

                 ■   ■

 新潟県出身の涌井氏は昭和45年、高度経済成長期の食を支えるべく、日本で第2の広さの湖だった八郎潟を干拓して生まれた大潟村に入植した。ほぼ同時期にコメの生産調整(減反)が始まる。野菜など他の作物への転作を迫られた農家も多い中、「大潟村の地理や気候に合うのはやはりコメ」と米作にこだわり続けた。これまでの取り組みは「生産コストを下げながら米の付加価値を上げ、新しい市場を開拓する」という戦いだった。

 最初は村内の農家からコメを引き受け、農協を通さない独自ルートで顧客を開拓し、産地直送で届けた。次いで無洗米で付加価値を上げ、さらに栄養価の高い発芽玄米を取り扱い、最後は米粉の生産から加工、販売も手がける「6次産業化」に行き着いた。

 米粉で作った麺は小麦粉の麺に比べて伸びやすいという弱点がある。食感や色を近づけようと試行錯誤を繰り返しながら、「『グルテンフリー』の商品として売り出そうと決めた」。現在は食感や色が小麦粉の麺に最も近いという、発芽玄米の米粉を使う。

 将来的には主食用のコメ輸出も目指す。中間層向けの「嗜好(しこう)品」として受け入れてもらう狙いだ。「餅と同じ嗜好品と考えれば市場はあるはずだ」

 一方、食品メーカー「餃子計画」(大阪市)が作る「米粉の餃子」の人気も急上昇している。平成24年に大潟村に工場を設立、村から米粉を仕入れてギョーザを生産。現在は当初の3倍の月産100万個まで拡大した。スーパーだけでなく学校給食にも展開し、「『小麦アレルギーの子供も餃子を食べられてうれしい』といった声も届く。月産300万個を目指す」と阿部孝志工場長の鼻息は荒い。

                 ■   ■

 農業は東北の基幹産業で、4月の秋田県知事選でも争点の一つだ。特にコメは、30年産米から減反が廃止になる。保護主義を打ち出す米トランプ政権の誕生など環境が激変する中、さらに競争力をつけなければ先細りは避けられない。

 秋田県産あきたこまちの28年の相対価格は玄米1俵(60キロ)が1万4159円。26年の米価下落以降、需給の引き締まりから価格は持ち直しつつあるが、農業関係者は「1俵1万円」の水準も意識しており、将来的に「数千円まで値崩れする」と懸念する向きもある。涌井氏は言う。

 「大潟村のような場所を国が再び基盤整備して、農地の集約と大型化を進めなければ、(日本の農業は)難しい」

                   ◇

 大規模化で先行したものの、国の政策に翻弄された大潟村では今、さまざまな先進的取り組みが進む。その現状から日本の農業の将来像を考える。