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大きく育て「温泉トマト」 旅館の若女将着想、静岡大農学部が協力

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大きく育て「温泉トマト」 旅館の若女将着想、静岡大農学部が協力

 焼津市の旅館の若女将(おかみ)が、温泉水を利用したトマトの栽培を始める。旅館の敷地に湧く自慢の温泉を入浴以外に利用できないかと、静岡大農学部の協力を得て5年前から研究を進めてきた。2年間の研修を経て新規就農者の資格も取得し、3月に植え付けが始まる予定で、6月の初収穫を目指している。

 ◆6年前思いつく

 「温泉トマト」の栽培を始めるのは、焼津市の旅館「蓬来荘」の若女将、望月美佐さん。市内で唯一の自家源泉を持つ旅館だが、「焼津に温泉があることすら知らない人が多い。温泉をPRしながら、新しい取り組みに活用して、地域振興につなげられないか」と考え始めたのは、6年ほど前だった。

 ちょうどそのころ、「海水の農業利用の可能性」という新聞記事を目にした。焼津の温泉水は塩分が強い。「海水が農業に使えるなら、温泉水も大丈夫では」と、県の研究機関に打診した直後、東日本大震災が起きた。

 直接の被害はなくとも、海が近い焼津からは観光客が潮が引くように消えていった。「受話器を取ればことごとく宿泊キャンセルの電話で、ノイローゼになりそうでした。同時に、新しい地域資源を見いださないと、魚だけに頼っていてはこの街は先細りすると痛感したのです」

 望月さんの熱意は、周囲を動かした。静岡大農学部の研究グループとともに試験栽培を繰り返し、トマトならば、温泉水を養液に加えることで糖度が高くうまみ成分が豊富になり、食味もよくなることが分かった。

 ◆資格取得に2年

 ところが、新たな壁が立ちはだかる。農家でない望月さんが農地を借りるには、長期の研修を受けて新規就農者の資格を取得する必要があったのだ。本業の旅館が忙しい朝夕は若女将として働きながら、2年間研修を積んで、昨年夏に念願の新規就農者資格を手にした。

 「温泉水を農業に」という着想から6年。藤枝市内に450坪の農地を借りて、この3月に初めての植え付けを行うまでにこぎ着けた。順調にいけば1回の収穫で約1トンの「温泉トマト」が取れる見込み。「一般的なトマトの糖度は4度ほどですが、温泉トマトは7度以上を目指しています」と、味には自信がある。

 安定的に収穫できるようになったら、「温泉トマト」をブランド化して特産品として売り出すことを模索する。さらに、作業工程をマニュアル化してパート従業者でも農作業ができるようにし、地元での雇用確保につなげる考えだ。

 「焼津といえば魚というイメージがあるが、焼津の発展のためにも魚に頼らない新しい地域資源を開発したかった」と話す望月さんは、「温泉トマトを使ったオリジナルの加工食品をつくって地元で販売できるようになれば」と大きな夢を描いている。