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旧居留地愛した版画家に光 長崎出身の田川憲、作品に残る消えた街並み

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旧居留地愛した版画家に光 長崎出身の田川憲、作品に残る消えた街並み

田川憲(右)と、作品を持つ孫の俊さん 田川憲(右)と、作品を持つ孫の俊さん

 幕末から明治期にかけ多くの外国人が暮らした長崎市の旧居留地一帯が、国の保存地区に指定されて四半世紀余りが経過した。その街並みを愛し、いち早く保存を訴えた地元出身の版画家、田川憲(本名・憲一、1906~67年)に注目が集まっている。失われた光景を含め、一帯を題材とした作品を多く残している。

 長崎市出身の田川は、版画界を牽引(けんいん)した恩地孝四郎の影響を受け、力強い線と鮮やかな色彩で知られる。東山手・南山手地区の洋館が並ぶ坂道や港のほか、世界遺産に登録された「旧グラバー住宅」の明媚な庭などを描いた。

 田川は多くの洋館が立ち並んでいた当時から、版画や文章を通し一帯を「日本の貴重な文化財」と評価し、保存を呼び掛けた。しかし周囲には、なかなか浸透しなかった。昭和35年の手記には「私一人で、画になる限り版画として残す」と書いた。

 再開発などで洋館は徐々に姿を消し、点在する程度に減った。その後、歴史的な価値や保存の必要性への認識が高まった。北海道函館市や神戸市などと並ぶ国の「重要伝統的建造物群保存地区」に平成3年に選定された。この結果、行政からも手厚い支援を受けられるようになった。長崎南山手美術館の常川和宏館長(69)は「保存を訴えるのが早過ぎて、聞く耳を持つ人がいなかった」と、田川の先見の明を評価する。

 田川の功績への評価とともに、作品への関心も高まる。長崎県美術館学芸専門監の福満葉子氏(49)は「古き良き長崎を見ることができる。素朴で温かみもある」と魅力を解説した。美術館では平成29年度中の作品展を構想している。

 田川の孫に当たる俊さん(46)は、他の親族から作品を受け継ぎ「画集などの形で多くの人に見てもらいたい」と整理を進める。生前親交があり、作品展を自費開催したこともある自営業、本田邦子氏(87)は「作品に残る昔の長崎を見ることで、これからの街づくりの参考にもなるだろう」と力を込めた。