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二紀展で総理大臣賞の滝純一さん「美から外れた美しさを」 福岡

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二紀展で総理大臣賞の滝純一さん「美から外れた美しさを」 福岡

 設立70周年を迎えた美術団体「二紀会」が主催する公募展「第70回記念二紀展」で、福岡県岡垣町在住の画家、滝純一氏(72)の「聖山羊譚(せいやぎたん)」が、絵画部門で最高賞の内閣総理大臣賞を獲得した。滝氏は半世紀の創作活動を「類型化した美しさを拒絶する戦いだ」と振り返った。 (中村雅和)

 絵を描くということは、常に「美の概念」を広げる戦いです。

 誰もが美しいと感じるモチーフを描いても意味がない。一般的な美から外れた美しさを発見し、提示することを心がけてきました。「類型化した美しさ」を拒み、自らの想像力を発展させる。その積み重ねです。

 感覚や発想法を、絶えず新陳代謝することが欠かせません。誰も助けてくれない孤独な戦いです。これまでの作品に、そんな私の姿が投影されています。

 一方、絵を描くための技法は、積み重ねられてきた伝統があります。西洋画を描くにはその“文法”に沿わなければなりません。

 私が学生の頃、古典とされたのは「近代絵画の父」とされるフランスの画家、ポール・セザンヌ(1839~1906)でした。

 ただ、セザンヌの前には古典派やロマン派、バロック絵画などがあります。セザンヌも、そのような文脈の上に立っているんです。

 セザンヌだけでなく、より前の技法を学んでいこう。そう考え、活動を始めました。

 最も影響を受けたのは、同じようにセザンヌ以前を追究したオーストリアのウィーン幻想派です。数度の留学を通じて、鶏卵で絵の具を溶く「卵テンペラ」と呼ばれる技法に加え、それぞれの画家独自の「美の表現」に衝撃を受けたのです。

                   ◇

                 × × ×

 今回受賞した「聖山羊譚」のモチーフは、近くの農家から自宅に逃げてきたヤギです。昨春のことでした。ヤギは良い目をしていました。光が内側に沈み込んで凝縮し、雄弁に語りかける印象を与える目です。

 似たような目に、以前出会っています。昭和59年から60年にかけ、「歩く犬」などの作品で描いた一匹の犬の目です。

 犬は蛇に咬まれたうえに、心臓の病気を抱えて、足を引きずっていました。普通なら全く美しいと思えないモチーフですが、作品は非常に高い評価を受けました。

 今になって思えば、犬と自分の境遇に一致するものがあったのかもしれません。当時、私はウィーンへの留学を終えたものの、何を描けば良いか分からない状態でした。(絵画から)そのようなリアリティーを感じさせられれば、人を説得し、美しいと感じてもらうことができるんです。

 実は、今年も何を描けばよいか分からない、苦しい状態でした。

 そんな中だけに、5年に1度の総理大臣賞を受賞できたことは大きな喜びです。この年になって思うのは、賞をもらい、認められるということが大きなモチベーションになるということでした。

 自分の目指している方向は間違っていない。その客観的な裏付けが「賞」なのです。若い頃は想像もつかない心境ですね。

 理想は、新たな美を探求する深い感性と、技法に通じた明晰(めいせき)な知性を持ち続けることです。今後も、孤独な戦いを続けますよ。