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【突破力】北九州市・ワキノアートファクトリー 花火は「まちづくり」だ

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【突破力】
北九州市・ワキノアートファクトリー 花火は「まちづくり」だ

 関門海峡花火大会や「わっしょい百万夏まつり」(北九州市)など九州各地の祭り・イベントで、大空に花開く花火が観客を魅了する。年間3万~5万発の花火を製造し、打ち上げだけでなく、イベントの演出、企画も手がける。

 製造には10人の花火師が携わる。花火の色の元は、金属を燃やしたときに、特定の色が出る「炎色反応」だ。ナトリウムなら黄、銅なら青緑-。よく見る花火の玉には、こうした金属を含んだ火薬の粒「星」がたくさん入っている。

 薬剤の配合と乾燥を繰り返し、0・5ミリずつ星を大きくしていく。その星を玉に詰め、表面にクラフト紙を貼る。

 上空で花開くとき花火は、直径60~700メートルにもなる。玉に星をつめる際の数センチ、数ミリのわずかなずれが、上空では何メートルもの違いになってしまう。

 工程はほとんど手作業だ。寒い冬は手がかじかむ。職人には感覚や経験に加え、集中力と忍耐力が必要とされる。

 花火玉を作るには、小さなもので数週間、大きなものでは約2カ月もかかる。花火師の努力の結晶は、大空に1、2秒の空間芸術を描き出す。

 脇野正裕社長(46)は「花火が本当に好きで、終わった後の歓声が忘れられない人が職人に向いている」と語った。

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 花火大会では「何万発」といった規模が注目されがちだが、脇野氏は地域らしさの表現に重きを置く。

 「どんなイベントにしたいのか、依頼者にじっくり話を聞く。祭りは地域のコミュニティーを醸成する場です。ドーンと上がった花火を見ながら、お酒を飲んだり話をすれば、仲良くなれる。『自分のまちの花火』と思ってもらいたい」

 地元住民と一からイベントを作り上げることもある。

 福岡県宗像市で、夏に開かれる「宗像フェス」がある。古代遺跡「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界文化遺産登録の機運を盛り上げようと、前身のイベントが平成24年に始まった。

 ワキノアートファクトリーは実行委員会に参加する。有名アーティストの曲に合わせて、花火を打ち上げ、会場を盛り上げる。どのタイミングで、どのような花火を打ち上げるか。他のメンバーと話し合いながら、演出を考える。

 花火が夏の風物詩だったのは昔の話。今は学園祭や大みそかのテーマパークなどで年中打ち上げられる。

 イベント1カ所の売り上げは数十万~数千万円まで幅がある。収支的に厳しいものもあるが、脇野氏はそれを「投資」と考える。

 「最初から見積書を持っていっても、信頼は築けない。1回のイベントで収支を合わせるのではなく、イベントが形になるまで、まちの人と取り組む。良い花火で感動してもらえれば、イベントが継続し、築いた人脈で別の依頼が来ることもある」

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 携わるイベントは、小規模のものを含めれば年200カ所に上る。

 地域の祭りに加え、ハウステンボス(長崎県佐世保市)といったレジャー施設のイベントに力を入れる。

 ハウステンボスは年間を通して花火を打ち上げる。特に、世界各国の花火師が腕を競う「世界花火師競技会」では、競技に参加するだけでなく、海外の花火師との橋渡し役も担う。

 新たな企画を提案することもあり、11月上旬にも、ハウステンボスの沢田秀雄社長にプレゼンテーションをしたばかりだという。

 脇野氏にはこんな思い出がある。

 幼いころ、父の佑一氏(73)=現会長=が打ち上げた花火に感動した人が「日本一の花火屋だな」と脇野氏の頭をなでた。「こんなに感動してもらえる仕事があるのか」。幼心に実感した。

 「感動は人を動かす。イベントを盛り上げ、まちを元気にするために花火を使ってほしい。思いを表現する花火は、まちづくりそのものだといえます」 (高瀬真由子)