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天心が惚れた海岸線復興へ着々 北茨城を歩く 天気よければ富士山も

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天心が惚れた海岸線復興へ着々 北茨城を歩く 天気よければ富士山も

 東日本大震災の発生から5年8カ月余。県沿岸部の最北端に位置する北茨城市は最大6・7メートルの津波に襲われ、その後、復興に向けて着実に歩みを進めている。だが、市商工観光課によると、震災前は年間約120万人もの観光客が訪れていたにもかかわらず、その後激減し、昨年は約78万人。今、改めてこの地の魅力に触れてみた。(鴨川一也)

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 太平洋にせり出した断崖絶壁に白波が砕け散り、その波に削られてできた巨大な岩が点在している。北茨城市の魅力は、風光明媚(めいび)な海岸線だ。

 中でも五浦海岸は、日本美術の礎を築いた明治時代の思想家、岡倉天心(1863~1913年)が崖に打ち寄せる波の音と風景に惚(ほ)れ込み、居を構えた地として知られる。天心ゆかりの六角堂(同市大津町五浦)はあまりにも有名だ。県天心記念五浦美術館(同市大津町)で芸術に触れ、六角堂の辺りから海を眺めながら、思索にふけるのも悪くない。

 観光客でにぎわう港

 大津漁港を訪れると、一部で復旧工事は続いているものの、漁や水揚げは再開され、大津漁協直営の食堂や隣接する物産館は新鮮な魚介類を求める観光客でにぎわっていた。

 市内の大津、平潟両漁港にはさまざまな地魚が水揚げされる。名物はアンコウ。冬が旬のイメージが強いが、実は禁漁の7、8月を除いて取れ、1年を通してアンコウ料理を提供する旅館もある。鍋は店舗によって味付けが異なり、刺し身や唐揚げ、とも酢あえなど料理のバリエーションも多いので、食べ歩きも楽しめる。

 宿泊した民宿「暁園(あかつきえん)」(同市平潟町)で食したアンコウ鍋は、丁寧にこした肝がたっぷり使われたみそ仕立て。濃厚な味が身に染みる一品だった。夏はアワビや岩ガキなどが人気だという。

 同市の魅力は海辺だけではない。海岸から西に向かうと、標高881・6メートルを誇る栄蔵室(えいぞうむろ)がある花園地区にたどり着く。八溝山(やみぞさん)など県境の山を除くと、栄蔵室は県内最高峰で、山頂からは天気が良ければ富士山を目にすることもできる。

 巨木立ち並ぶ神社

 同地区の観光の目玉は、延暦14(795)年に時の征夷大将軍、坂上田村麻呂が創建したとも、慈覚大師が開基したとも言い伝えられている花園神社(同市華川町花園)だ。

 境内には樹齢500年を超えるとされるコウヤマキやスギなどの巨木が立ち並び、荘厳な雰囲気が漂う。近くを流れる花園川も多くの木々に囲まれている。観光ボランティアの男性は「秋にはモミジが色付き、冬になれば茨城では珍しく雪が積もる。きれいな風景ですよ」と話す。

 花園地区から戻り、海沿いを歩き、潮騒に耳を澄ませているうちに、心が落ち着いてくる。市観光協会が使用しているキャッチフレーズ「天心が想い、大観が描き、雨情が詠んだ感動のふるさと」の通り、ゆかりの偉人、そして多くの人に愛される市というのが分かる気がする。

 暁園の主人、仁井田康昌さん(42)は「嫌なことがあっても、海でぼーっとしていると気持ちが落ち着くんですよ。よく缶ビールを片手に海に行きます」と笑みを浮かべ、こう続けた。

 「たくさんの人においしい魚を食べてのんびりしに来てほしいな」