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【悲願達成JR九州上場へ】(上)25日、完全民営化「三島会社」で初

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【悲願達成JR九州上場へ】
(上)25日、完全民営化「三島会社」で初

 ■災害・赤字乗り越え路線を守った30年 観光列車とネットに活路

 JR九州は今月25日、東証1部に、26日に福岡証券取引所に上場し、完全民営化を果たす。経営基盤が脆弱な「三島会社」として初の上場であり、昭和62年の国鉄民営化後、30年来の悲願が達成する瞬間が近づいた。ここまでの努力と、この先の課題を追った。

 熊本地震から半年が経過した。阿蘇地方を走るJR豊肥線の一部区間は、軌道が見えないほど雑草が生い茂る。まるで廃線の雰囲気だった。

 線路が通っていた場所の斜面は崩れ、阿蘇~肥後大津間(約27キロ)は、運転再開のめどが立たない。地元ではルート変更や廃線を危惧する住民もいる。

 だが、JR九州の青柳俊彦社長は「昔の人はえらかった。鉄車輪で(阿蘇の外輪山を)登れるルートは今のルートだ。治山のめどが立てば、早期に復旧に着手したい」と現ルートでの復旧を強調した。

 「道の駅阿蘇」を運営するNPO法人「ASO田園空間博物館」マネージャーの下城卓也氏(48)は「観光だけでなく住民の足でもあり、困っている人が多い。やはり鉄道は重要なインフラだ」と語った。

 九州は自然災害が多い。

 例えば豊肥線は平成に入ってからだけでも2年、5年、16年、24年の4回にわたって台風や豪雨災害で不通となった。復旧には数カ月から1年以上の日数と、億単位の費用がかかった。

 そして今年4月、熊本地震が発生した。

 豊肥線など在来線に加え、九州新幹線の回送列車が脱線し、橋脚や防音壁なども損傷した。

 JR九州の社員は不眠不休で復旧作業にあたった。被災地の復旧・復興には、新幹線運転再開が欠かせない。官邸の後押しもあって、全国のJRグループから応援が集まった。わずか「13日」というスピード復旧を実現した。

 新幹線復旧は、JR九州の株式上場、完全民営化にとっても必要不可欠だった。新幹線全線が運転を再開した4月27日、青柳氏は「上場へのスケジュールは遅れることはない」と強調した。

 ■弱点を逆手に

 昭和62年の発足時、JR九州は管内全路線が赤字だった。

 同じJRでも、東日本の山手線や、東海の東海道新幹線のような「ドル箱路線」は持たない。国から交付された経営安定基金3877億円の運用益で、赤字の穴埋めをするしかなかった。

 当時、運輸省は毎年5%の運賃値上げを前提に、JR九州の鉄道黒字化を試算していた。だが、運賃を値上げすれば、利用者はさらに離れ、さらなる値上げに追い込まれる。負のスパイラルが待っていた。

 値上げせずに、どう鉄道事業を立て直すか-。JR九州の経営陣が出した答えの一つが、クルーズトレイン(観光列車)だった。

 「列車そのものを旅の目的にする」。クルーズトレインは、赤字ローカル線ゆえの運行ダイヤの余裕や、過疎地に残る美しい風景という、いわば弱点を逆手に取る発想だった。

 平成元年の「ゆふいんの森」に始まり、25年10月には豪華寝台列車「ななつ星in九州」が運行を始めた。

 ななつ星効果は他の路線にも波及した。JR九州が国内外の注目を集めたことで、「指宿のたまて箱」など他のクルーズトレインの乗客も急増した。

 国内のクルーズトレイン市場が花開いたことで、JR九州は、追われる立場となった。

 JR西日本は29年春に「トワイライトエクスプレス瑞風」、東日本は「トランスイート四季島」を同年5月、運行を始める。売上高で西日本はJR九州の4倍、東日本は8倍もの規模を誇る。巨人の参入だ。

 だが、JR九州の青柳氏は「日本の鉄道は面白いなと海外から注目され、ななつ星にはプラスになる」とライバル登場を歓迎する。

 これまで育んだ、おもてなしのノウハウに絶対の自信を持つからだ。ななつ星のクルーは毎年、新規募集する。最高級列車で経験を積んだ人材が、社内に蓄積されていく。

 JR九州は来春、新たにクルーズトレイン「かわせみ やませみ」を投入する。ななつ星を加え、12種類目のクルーズトレインだ。この広い裾野が、JR九州の底力となっている。

 ■「お客様を動かす」

 とはいえ上場後、JR九州の経営には、株主が厳しい視線を送る。株価が低迷すれば、赤字路線からの撤退を求める声も上がるだろう。その中で「地域の足」である路線を維持しなければならない。

 JR九州は今年3月末、経営安定基金を取り崩し、九州新幹線の設備使用料2205億円を一括で支払った。さらに不採算の固定資産について5200億円超の減損処理に踏み切った。

 28年度決算以降、減価償却費など負担が軽くなり、鉄道事業の黒字転換にめどがついた。

 ただ、こうした手法が使えるのは一度きりだ。固定資産税の減免措置も、30年度までで終了する。

 JR九州は中長期的な収益力向上策として、九州新幹線の乗車率アップを図る。博多-熊本間の平均乗車率は50%程度で、「半分は空気を運んでいるようなものだ」(JR九州幹部)。そこでネット販売に活路を見いだす。

 今年4月には九州新幹線を対象に、他社の路線検索サイトから、自社の予約サイトに直結するシステムを構築した。路線を調べれば、そのまま乗車券を購入することができる。

 また、人気アイドルのコンサート開催など、多くの新幹線利用者が見込める日は割引率を抑え、逆に閑散期は通常よりも安く購入できる仕組みを整える。

 本郷譲専務は「こうしたイールドマネジメント(収益管理)で上手にお客さまを動かすことができれば鉄道収入は増える」と語った。

 コスト削減と利便性の両立も欠かせない。

 JR九州の在来線567駅のうち、無人駅は約290駅と半数を超えた。こうした無人駅にオペレーターと話せるインターホンを設置した「スマートサポートステーション」も広げる。

 人口減少の中で、いかに路線を維持するか。JR九州は上場後も模索を続ける。その処方箋は、同じ悩みを抱える国内各地でも応用できる。